NIWA MAGAZINE

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青の導く場所 vol.3 文/安部 太一

青の導く場所3

”one life”

 

 
3月19日土曜日、昨日からの雨が今朝も降り続いている。

 

 

冬の寒さは和らいで、春へ向かう約束のような雨だ。
河の向こうの街並みは霞んでいて、車がアスファルトの水をはねるのが遠くで聞こえる。工房の前の椿は風に微かに揺れて葉の先から雫を落とし、赤い花が灰色の空に鮮やかに咲いている。
イソヒヨドリが蜜を吸いに来て気高い声で鳴く。
時間が進んでいることを知らせているみたいだ。

 

 

心理学者、河合隼雄さんとの対話を読んだのがきっかけで、吉本ばななさんの小説をいくつか読み直した。

 

 

「キッチン」を初めて読んだのは十代の頃だったと思う。今になって読み方がわかった、とも言えるかもしれない。
初期の作品も好きだけど2005年の「みずうみ」、2008年の「彼女について」も良かった。

 

 

一貫して作品には、生や死や光や影が同時に描かれていて、それらは対極にあるようで実は表裏一体のものだと、示唆しているみたいだ。
そこには大衆的ではないかもしれないけれど、強く惹きつける特定の周波数があって、チャンネルが合う人、あるいは心の状態がそれに合う時、深くまで入っていけるような気がする。
読み終えると不思議と整ったような、少し凛とした気分になる。

 

 

ある種の物事や気持ちは声に出した途端、それが外気に触れた途端に形を無くして、相手にとって軽すぎたり重すぎたり、滲んでぼやけてしまう。

 

 

物語にはそれを介して、魂のこもった思念のようなものを伝える力があって、読み手はそれを自分のタイミングと感受性で受け取ることができる。
そこには会話とも肉体関係とも違う、もしかしたらもっと深いコミュニケーションが成立するのではないかと僕は思う。

 

 

古い友人を懐かしく思う日、

寒い冬の終わりに春を感じて気持ちが明るくなる日、
時間しか解決できない物事に坦々と向き合う人の日々、
その立場になってみないと本当にはわからない孤独と重圧に向き合う人の朝、
永遠に平行だと思っていた線が、

ふとした拍子に交わって温かい気持ちになれた日の眠りにつく前、
単純ではないそれぞれの個人的な人生に、
僕の作るものも優しい物語みたいに、寄り添ってくれたらといいと思う。

 

 

3月25日、よく晴れた金曜日、近くの大学の卒業式があったようです。そしてすぐ4月には入学式、入社式でしょうか。

 

 

おめでとうございます。

 

 

春ですね。

 

 

 

安部太一(陶芸家)

1975年 島根県生まれ
2001年 陶芸をはじめる(父・安部宏に師事)
2006年 個展等、活動をはじめる
2010年 独立、現在は島根県松江市にて制作

http://taop410.com/