NIWA MAGAZINE

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月とワインと森  文/若杜 知美

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ワインの香りを嗅ぐと
なんともいえない気持ちになることがある
それはただ涙が流れ落ちるような
言葉では表わしがたい想いが湧き上がる音楽を
聴いたときの感覚にも似ている

 

瞼をそっと閉じると
一気に森へといざなわれるように
さまざまな香りに包まれて
呼吸が深くなるのだった

 

ワインの香りには
500とも600ともいわれる種類のにおい物質が
含まれているという

 

ワインは葡萄が姿を変えて生まれるもの
そのワインが発する香りは
葡萄だけではなく
グレープフルーツやアプリコット
ハーブやスパイス
白い花やローズ
干し草から落ち葉まで
様々な「香り」という形で
わたしたちに訴えかけて魅了する

 

その香りや味わいは
ふたつとして同じ経験をすることがない
ある人がその瞬間にその場所で
たった一度だけ出逢う

 

ワインはその年の四季と土地を
ありのままにボトルの中に閉じ込める
自然と人が対話をしながら生まれるアート

 

そしてその香りは
味わい続ける間にも
繊細に揺れ動く

 

月が満ちては欠け
わたしたちの心を映し出すように
ひとくちのワインを口に含むと
香りが「ワタシ」のすべてを包み込み
身体全体に沁みわたる

 

空へと清らかに広がる感じ
地球の中心へとどっしり落ち着く感じ
ひとつひとつのワインが語りかけ
身体に備わる知性が受け止める

 

美しいボトルに詰められるワインたちは
大いなる自然の恵みの結晶

 

星の世界では
植物も人間も
太陽や月、星々の
すべて天体の影響を受けていると考える
それは暦や時計という形で
今わたしたちは受け取っている

 

文明がなかった頃
遥か昔の先人たちは
いつも空を見上げ
時を知っていたのだろうか

 

月の満ち欠けが
ワインを育み味わいを左右するという神秘も
あたりまえのことだったのかもしれない

 

一杯のワインがそこにあるということ
一瞬にして森の中へと連れ出してくれる魔法

 

それは自分も自然の一部だということを
日々の暮らしの中で思い出させてくれ
いつでもそこに還れるのだという
神様からの豊かで贅沢なプレゼントなのかもしれない

 

 

若杜 知美
ホロスコープセラピスト/ヨガ講師/ソムリエ

京都在住。

天体の流れを読むことや、ヨガやアーユルヴェーダを実践し教えることで、ひとりひとりが自然の一部であることを感じ、自分らしく生きる智慧を伝えている。また、京都坊主BARにソムリエとして従事し、わたしたちが暮らす日本の大地と自然の巡りによって育まれるワインを、造り手たちの想いとともに、日々出逢う人たちと分かち合うことを喜びとしている。

京都坊主BAR

http://bozubar.tumblr.com