NIWA MAGAZINE

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森脇家言行録—頬を寄せ合うvol.3 「息」 文・森脇智美

 

 

ひんやりとした空気の中でポキンポキンと音がする。
製陶所の談話室から仕事場へ顔を出すと
森脇靖の背中が見えた。
片膝をつき腰をおろし、腕を動かす。
パチパチという音が聞こえてきた。
細い枝を折って火にくべていた。
煉瓦で作ったストーブの中で枝が小さく爆ぜ、勢いを増し燃えていく。

 

 

製陶所から出てしばらく子どもたちと外で遊んでいると
仕事場に居たと思っていた主人が、ふらりと斧を手に出てきた。
以前に倒した樹の長い幹や太い枝を切り分け保管していたものに
斧を打ち込もうと振り上げている。
甲高い音が響いて、
さきほどまで1つの塊だった木が分かれ左右に引き離された。

 

 

目の前に積まれた薪となった木を見つめ、
何かを考えたのか、それとも何も考えていないのか、
無言で主人は道具を手にし、坦々と同じ作業を繰り返す。
腕を振り上げ、下す。
一定のペースで木が割れる音が聞こえていたが、しばらくして静かになった。
気になってあちらへ目をやると、もうそこに姿は無かった。
製作するためにまた室内に戻ったのだろう。

 

 

道具の力を借りながらも人の手で人の体を使ってする仕事が
一昔前には日常にあったのだろう。
それは何かのイベントでも体験教室でもなく普段の、いつものこと。
楽しみとか趣味だとかそういうことではなくて
冬になる前にしなければいけないこと、ただそれだけ。
こうやって木を倒して薪にするということが
直接、お金というものと同等にはならないが
人が生きるために必要不可欠なものだった。
火になり、暖をとり、煮炊きが出来るもの。
楽しいや格好いいが目的ではない。
それはもっと切実なものだったのかもしれない。
父親という背中にひっついた妻であり子であり家族というものが
この作業によって、生きることに直結するのだ、という。
自分たちが生きるために家がある。
身の回りを整えることが生きることなのだと思う。

 

 

自分の手を使って薪を作っていると、それが火に変わる。
温まり、調理ができる火になる。
それを考えた時、体の底からじわじわと嬉しさのようなものが出てくる。
と、主人が言う。
表情に出てくるような明確な嬉しさではない。
静かに湧き出る感情が自分の中を巡って、また自分の血になるようだ、と。

 

 

走り回る子ども達が私に近付いてきた。
鼻と頬を赤くして笑い声をあげながら、あのね、さっきね、と
必死に話そうとする小さな口からは白い息が出ている。
製陶所の煙突から出てくる煙とともに冬空にのぼっていく。

 

 

 

森脇智美

広島県広島市生まれ。
中学二年生の頃から絵や言葉を書きはじめる。
広島、大阪、東京、小樽、札幌などで個展を開催し作品集を二冊発行。
陶芸家 森脇靖と結婚し島根県邑南町に住む。
森脇靖と共に歩み、二人の息子、娘と向き合いながら
日々感じる物事を言葉にする。

 

「私にとって言葉を書くということは日常です。
日々感じたこと、疑問、不安、喜び、
その瞬間に生まれ、瞬く間に消えてしまいそうな感情を
書き記すことを続けています。
気持ちに正しいことも間違えもありません。
自身の環境や年齢、読んだ本、人との出会い、家族、
様々なことを通して心が動いた時に、言葉として外に出しています。
私の言葉は、作品でも仕事でもなく、
ライフワークとしてずっと続けていきたいことです。」

 

森脇家言行録(http://maru.morisei.net/