NIWA MAGAZINE

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「素と人」vol.1 陶芸家・森脇靖さん 文/小川敦子

日本の原風景が色濃く残る、島根。

古くから伝わる神社や神々しい森。森羅万象の世界。

自然が織り成す、濃密な空気感と

深く静かに呼応しながら

この地の作り手たちは、ものを生み出している。

いや、「生まれ来る」と表す方が

しっくりくるかもしれない。

作り手たちの手の内から

「生まれ来る」ものに

私は、どうしようもなく心惹かれてしまう。

素朴で、やさしくて、どこかノスタルジックで。

奥底には、強さを秘めている。

ここにしかない、上質なものたち。

 

陶芸家、織り手、紙漉士。4人の作り手たちに会うため

2015年 春のはじまりに、私は島根を訪れた。

 

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森脇さんの工房がある邑智郡邑南町おおちぐんおおなんちょうは、島根と広島の県境に位置する町で、石見銀山などいくつかの山を越えたずっと先にある。松江から車で片道、約3時間。松江市で「DOOR」というセレクトの本屋とギャラリーを営む、高橋香苗さんに案内していただいた。

 

DOORには、高橋さんのニュートラルなフィルターを通して、ひとつひとつ丁寧に選ばれている上質な本と山陰の作り手による作品が上品に並ぶ。庭に面した、大きなガラスの引戸から入り込む光に店内はやさしく包まれ、それぞれの作り手たちの背景を伺いながら、気に入った作品とじっくりと向き合うことができる。森脇さんとの出会いも、この場所がはじまりだった。

 

 

一面コバルトブルーの穏やかな水をたたえる日本海の海岸を通り抜け、山の路へ入って行く。車中、美しい樹木が連なる山々や透明な川の流れを見つめながら、その風景と呼応するかのように、高橋さんと私は、深い心根にある感情や考えていたことを互いに吐露し、いつしか話し込むようになっていた。山が深くなるにつれ、この風景が自分の一部になったような感覚を覚える。いや、よく考えてみれば、自分がこの風景のほんの一部に過ぎないのかもしれない。自分の身体が深い森に、すっと取り込まれていくようだった。

 

いつしか、邑南町の工房にたどり着く。茶室のにじり口のように設けられた低い入り口を開け、頭を下げて、足を踏み入れる。ガラスのない、窓枠だけの窓。工房の中には、春の風がふんわりとそよぎ、鳥の鳴き声や樹々の揺らぐ音が自然と耳に心地よく響く。森の中に佇む、静謐な空間。

 

挨拶もそこそこに、森脇さんは、私たちのために、お茶を点ててくださる。工房の一角に設けられた、畳敷きの小さなスペースで。凛とした姿勢と流れるような所作。炭をおこして鉄瓶で湧かしたお湯で丁寧に注がれた最初の一杯は、桜茶だった。器の中に咲く春の色。そういえば、工房までの車中、森の中にすらっと細く背の高い山桜の花が咲きはじめていた。その景色をぼんやりと想い出す。上品で儚げで、今この瞬間にしか味わえない、春の色と命。

 

二杯目はお抹茶。自身で作陶した、シンプルで白い器に抹茶の綺麗な緑色が良く映える。いわゆるお茶の心得について本格的に習ったものではなく、手習いの経験がある奥様より、基本的なことを教えてもらっただけだという。しかし、持って生まれたものなのだろう。人をもてなし、心と心で向き合いながら対話する、茶道の「本質」を自ら作り出した空間と器をもって、すっと滑らかに実現してしまうような人なのだ。

 

丁寧で、温かなもてなしを受けたあと、作陶している轆轤などを見せていただく。土に手を触れていると、自然に形が出来上がってくるのだという。設計図やデザイン図のたぐいは一切、描かない。マーケティングやブランディングのたぐいにも、一切興味がない。土と向き合い、二つの手から、自然と生まれ来る器。工房を取り巻く森の中で、森脇さんはあくまで「日常」ための器を、この土地の土と釉薬を使って、こしらえている。「自分という名前を知らぬまま、器を手に入れ、そして、日常でその人らしく使ってほしい」。ただ、その一心で彼は作陶に向かっている。静かに、素朴に。ありのままの器を生み出すために。

 

器を初めて手にする誰かは、この森の情景も、森脇さんが日々思考していることも知る由もない。けれども。‘なにか’が、器を手にしたとき、心に響いてくる。それは、彼自身が内包する、純粋で透明な「光」のようなもの。この森の情景と共に呼吸し合いながら生み出される器は、だからこそ、透明感に溢れ、そして、小さな生き物のようでもあるのだ。

 

 

いつまでも丁寧に頭を下げ続ける森脇さんの姿を確認して、私たちは工房をあとにした。

 

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