NIWA MAGAZINE

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「あれから5年」  文/町田泰彦

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私は、どうにか掴んだ鉄橋のその梁を離さないよう、ありったけの力を手に入れていた。私の体をさらっていこうとする濁った水がだくだくと流れてゆくその先は、私の未来か、はたまた過去か。その、真っ暗な未来/過去と思える沖の方へ、土地から離脱し流れてゆく一軒の家があった。その家の中に、人影(ひとかげ)があった。真っ暗な未来/過去のなかから炙り絵のように染み出て来た白い顔が見えた。その人は、私を見ていた。この、私を見て、笑っていた。手を大きく左右に振り「おーい」と笑った。

 

その笑っている男を、私は、わたくしだ、と思った。今、こうして震災から5年が経ち、食うものにも困らずにひとまず明日の心配もせず暖かい布団の中で眠られる私が、その、笑っている男を、私は、わたくしだ、と感じている。そして、濁流の中、渾身の力で「今」にしがみついていた男のことも、私は、わたくしだ、と感じている。

 

流されたのは、私でも、隣の君でもよかったのか?そういう意味で、梁にしがみついたそのひとを、わたくし、と感じ、手を振る男を別の、わたくし、と感じたのか?

 

いや、そういうこととも少し違って、私は、まさにあの濁流に、かつて流されたのだ。私の全部、と言い切ることが難しいのなら、私の一部が。そして、いまもなお流されつづけているという感覚。その全部なり一部が、濁った水にまみれ、遠く遠い未来/過去へと、流され、流された果てのわたくしに、今、私が出会っている。

 

地震のあったあの日、大きな揺れのために一日が百分の2秒ほど短くなったのだという。大きな地震は、文字通り、地面を揺らしたのに加えて、時間をも揺らしたのだろう。あちこちに、ぽっかりとブラックホールのような裂け目が開いていた。5年前を振り返って、震災前と震災後、というその境に、その裂け目がある。私は、そこへと足を踏み込むことは極力に避けて入るけれど、それでも可能な限りに近寄って、その穴を観察している。

 

震災から5年、私は、観察をし続けている。過去と未来その両者を含めた「今」という時間を書き留めながら。そうやって、その書き留められた「今」という時間は、永遠の過去と未来を行き来する力を得る。映画『ハトを、飛ばす』や短編小説『土と土が出会うところ』は、そのような仕事のひとつなのだと思う。

 

震災、原発の爆発から6年目に突入する。大変なことがあることは想像できるけれど、楽しみなことしか思いつかない。

 

 

 

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町田泰彦(建築家)

1975年生まれ。幼少期を四国やニュージーランドといった自然が豊かな場所で過ごす。小栗康平監督作品の映画製作参加をきっかけに活動拠点を鎌倉から益子町に移す。著作に短編小説集『ハトを、飛ばす』『こつぜん』などがある。2016年にはドキュメンタリー映画『ハトを、飛ばす』を公開
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