NIWA MAGAZINE

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book & gallery DOOR高橋香苗セレクト「月の本」 vol.1

九州 048

「竹取物語」

月を愛でるという感覚は日本人にとってはとても馴染んだものです。けれども、世界的にはどうなのでしょうか。生の象徴として太陽を崇める態度は洋の東西にかかわらずあるようですが、月となると、冥界を支配する神と考えられ、月を長い間じっと見つめることや月光に照らされたまま寝るのはよくないと言われるなど、月を陰性として遠ざける傾向もあります。ところが日本では、その陰性に対してとても繊細で細やかな感受性をもって、美しさを讃えて、親しんできた歴史があるのです。

 

竹から生まれて月に帰るかぐや姫の物語。竹取物語はいつ誰が作ったかは不明となっていますが、誰もがその大筋を一度は耳にして親しんだ物語ではないでしょうか。今回、月にまつわるおすすめのお話を何か選んで欲しいと言われて、浮かんだのはやはりこの物語でした。

 

あらためて読み直すと。とにかく随所にいかにかぐや姫が美しいかということが描かれています。竹取の翁の家が光り輝くほどに美しい姫。そしてその美しい姫の姿は育てた老夫婦以外は誰も見た事が無いというのに、その美しさに吸い寄せられて魅了され、五人の貴人が身を滅ぼしてしまう始末。ついには帝までが姫をそばにと懇願しに使いをよこすほどで、月に帰る日が決まったことを知ると数千の兵を姫の屋敷によこして何とか行かせまいとする。それくらいすべての者の心を虜にする美しさなのです。

 

最後はもちろん、かぐや姫は月に帰ってしまうのですが、月からの迎えの者はこう言います。「姫よ。下界のこんな汚いところに長くいないで早くお帰りください」と。姫の帰る月は天上界として、美しい姫が最初から住んでいた神々しい住処であって、それに比べれば地上はあらゆる欲望がうずまく汚れたところ。けれども姫は最後の最後までその地上を離れてお別れすることを嘆き悲しみます。そして悲しみながらついに天の羽衣を着て、地上での出来事をすっかり忘れて月へと帰っていきます。

 

一度は自分たちの手元にあった歓びのすべてが行ってしまった先が月。

 

そういった月への強い恋慕、地上にはけっして見いだせない神々しい美への憧憬は、もともと私たち日本人が持っていたからこの物語が生まれたのか、はたまた、この物語が生まれて語り継がれてきたから月に対しての感性が受け継がれているのか。

 

姫との永遠の別れという悲しい結末に思いを寄せる度に、頭上で輝く月の光は天上界からの賜物としてさらに美しさを増すのです。

 

文/高橋香苗

 

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book & gallery DOOR オーナー高橋香苗 プロフィール

1984年 結婚を機に島根県の松江に移る。2004年~子育てが一段落したことと、単発のイベントを企画したことで、交友関係の質が変わり広がっていたことから、自宅の一部で本やテーブル周りのクラフトなどを扱う「DOOR」いう店を始める。2010年地元の物作り作家や友人たちといっしょに、隠れた山陰ならではものを探るために、手仕事を紹介するイベント「ひびきあうもの」を企開催。以来毎年行っている。

現在、従来の本屋とギャラリーに加えて、夏から店内での喫茶も始める天然素材で色にこだわった洋服のデザインや地元の工芸家のあゆみをテーマにした本の企画、および執筆に携わっている。

島根県松江市上乃木1-22-22

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