NIWA MAGAZINE

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book & gallery DOOR高橋香苗セレクト「月の本」 vol.2

「明恵上人」白州正子  「明恵 夢を生きる」河合隼雄

 

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鎌倉時代、ほぼ親鸞と同時期に生まれた明恵(みょうえ)上人のことをご存知だろうか。月の本を探しているうちに月と言えば、と浮かんだ人物がこの明恵上人だった。高僧として名を遺した人物ではあるけれど、明恵上人を知ればしるほど人としての魅力が月の光のような清らか光彩を放ってこちらを照らしてくる。大きな事を成し遂げた歴史上のヒーローではないけれど、明恵自身からあふれでる光彩が、今も、そしてわたしたちの未来へも放たれているのを感じるのだ。

とても不思議な人物だ。明恵の生きた時代は仏教界も政治の荒れ狂う波にまるごと飲まれて影響受けた不安定な時代。それなのになぜかそんな乱世に身をおきながら明恵にはいつも静まった池に映る月のごとく、不動の精神が清々とゆき渡っている様子しか浮かんでこない。人智を越えた妙を人として具現化しているまさに超人。その類いまれな資質はどこからきているのだろう。そんな明恵に惹き付けられてその生涯を記した名著がある。白州正子の「明恵上人」だ。明恵を知る上で最良の本ではないだろうか。

 

「あかあかやあかあかあかやあかあかや あかあかあかやあかあかや月」

月の歌を多く呼んだ明恵の歌の中でも有名なこの歌。

子どものような無邪気な歌の中に、くもりの無い澄んだ心ゆえ見える、人の世の都合を嘆く気持ちが童心になって叫んでいると白州正子は書いている。

世俗を断って安住しているのではなく、浮き世の灰汁につかったまま禅定を生ききった人物として、極めて親しみを込めて恋慕の情さえ感じるような筆致で読む者を透明な明恵の世界へいざなってもらえる本だ。

 

そして明恵上人に関する本をもう一冊。

河合隼雄の「明恵 夢を生きる」

この本はとくに明恵が生涯にわたってずっと記していった夢の記についての本なのだが、ユング心理学の第一人者である筆者が、西洋的悟性を駆使しながら東洋的な人智の向こうに広がる心の世界を、明恵の夢の記を、または明恵自身の精神を触媒にして探っていく渾身の著である。

 

この二つの本とも、明恵を知る事は己の魂の森の奥深くに分け入り未だ知る事の無かった光を見つけることでもあることを教えてくれる。その光の本質は目の前に燦然と輝く太陽ではない。それは、己の心を鏡にして写される月明かりにより近いのではないだろうか。

文/高橋香苗

 

 

book & gallery DOOR オーナー高橋香苗 プロフィール

1984年 結婚を機に島根県の松江に移る。2004年~子育てが一段落したことと、単発のイベントを企画したことで、交友関係の質が変わり広がっていたことから、自宅の一部で本やテーブル周りのクラフトなどを扱う「DOOR」いう店を始める。2010年地元の物作り作家や友人たちといっしょに、隠れた山陰ならではものを探るために、手仕事を紹介するイベント「ひびきあうもの」を企開催。以来毎年行っている。

現在、従来の本屋とギャラリーに加えて、夏から店内での喫茶も始める天然素材で色にこだわった洋服のデザインや地元の工芸家のあゆみをテーマにした本の企画、および執筆に携わっている。

島根県松江市上乃木1-22-22

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