NIWA MAGAZINE

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どこかにいるあなたとどこでもない私 文/大泉愛子

 

仙台から関西へ。仕事のために移り住んで7年近く経つ。

移ってからは特別に大きく何かが変わるでもなく違和感も感じずに住んでいた。

だって地球の裏側に行くってわけじゃないんだし、と。

 

そんな中、どうしようもない、物理的、心理的な距離を感じざるをえない出来事があった。東日本大震災。その日のことはよく覚えている。

当時働いていた美術館では、次の展覧会の準備の為、作品の入れ替えをしなくてはいけない重労働の日だった。

 

事務所で作業をしていた同僚から東北で大きな地震があったそうだ、大丈夫かと声をかけられた。慌ててパソコンで調べる。ニュースでは速報が流れていた。

急いで両親に連絡をとった。電話はなかなかつながらなかった。

 

何度も掛けているとようやく繋がり、安否が確認できた。地震の影響でライフラインが止まっているが、家族は皆無事だった。住んでいたエリアは津波の影響はなく、ライフラインも2、3日で回復した。その時は、電気だけが止まっていたので充電がもうすぐ切れそうだという両親への連絡は、心配で仕方がなかったが控えるしかなかった。

 

とにかく何が起こっているのかをインターネットやSNSで調べた。ニュースでは、緊急速報が流れる。地震の規模を知り、ライフラインや交通機関の停止、被害の大きさを知る。そして、信じられなかった。あの津波。

 

繰り返しニュースに流れる津波の映像を見て、本当に起こっているのか信じられなかった。信じたくなかったんだと思う。

想像も出来ない出来事を目の前にして、動けなかった。私はその時、生まれ育った土地で起こったあの出来事を、遠く離れた場所から傍観するしか出来なかった。

 

それから後は、記憶の時系列がばらばらで正確な流れが分からない。

 

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あれから私は、故郷に帰らずに今も関西に居続けている。

けれど、こうして書いていると思うこと。

 

帰らないことを選んだ私を、まだやりたいこと、見たいことが今居る場所にあったからだと思っていた。そう思うようにしていたんだと思う。

今すぐ帰って出来ることをしなくては、と思った。けれど、離れてしまったその物理的、心理的距離、そして、離れていた時間に埋められない何かを感じて帰れなかった。

 

それから、何も出来ない自分を、何も出来なかった自分をずっと責め続けている。生まれ育った故郷に対して抱えた後悔は、大切なその街や人の人生を変える大きな出来事があったその時に、そこに居て同じ出来事を共有できなかった自分勝手な後悔だ。

 

当事者になれなかった私はちゅうぶらりんのままだ。

当事者になれなかった私は問い続ける。

なぜあの時、戻らなかったのだと。たぶんずっと、事が切れるまで。

 

当事者って一体誰なんだろう。

被災者は一体誰までを言うのだろう。

私のなりたかった当事者って何なんだ?

 

家族を、誰かを亡くして悲しみに打ちひしがれたかったのか、ずっと住んでいた愛すべき故郷が失われてしまったことに涙枯れるまで嘆き悲しみたかったのか。考えたところで、同情をしたところで何も生まれはしないんだ。

当事者には、沢山の形があり、沢山の関わり方がある。

そう理解することで、生き方は変わってくる。

進み始める。

 

1秒ごとに、記憶は生まれ、同時に忘れていく。

1秒ごとに、人は死へ近づいていく。

だからこそ、その時間をどう積み重ねていくかに捧げたい。

どんな風にその1秒を過ごして積み重ねていくのか。

たとえそれを忘れていくとしても、どう重ねていくか。

それを考えて時を刻んでいく。

 

忘れられないことは忘れなくていい。思いとどめたいことは気持ちに正直にそういればいい。忘れたいことは忘れればいい。そうして次の瞬間を生きられるならば。

後悔しているならば、その後悔とどう向き合っていくか。

時間は戻らないけれど、どう向き合っていくかを丁寧に考えていきたい。

これから自分自身がどんな時間を刻んで、重ねていくかを考える。

その一秒に、繰り返し後悔をしないように。

 

どこかにいるあなたと、どこでもない私は、どんな時間を重ねていくのだろう。

 

大泉愛子

宮城県仙台市出身。せんだいメディアテーク勤務後、関西へ移住。現在、神戸アートビレッジセンター広報として勤務。個人企画として展覧会やイベントを不定期で実施。主な展覧会として西光祐輔写真展「I forgot but I can see. I remember but I can’t see.」などのほか、「神戸-アジア コンテンポラリーダンス・フェスティバル ♯3」広報、南山城村芸術祭2014 「村の芸術祭」、渡邊琢磨 Piano Quintet 関西ツアー2015の企画運営に携わる。