NIWA MAGAZINE

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本の話 vol.2 文/ book & gallery DOOR高橋香苗

vol.2   森についての本 Ⅱ

 

 

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前回、「フィンランド 森の妖精と旅をする」というタイトルの本をご紹介しました。森の国と言われるフィンランドの、森とともに、そしてその自然の脅威と向き合いながら聖なる領域との交感であった太古の風習を、美しい写真とともに紹介している本でした。

 

今の時代、私たちは、森を切り開いてそこに真っすぐに走る高速道路の上を通って短時間で遠くへ行ける暮らしを獲得しています。高速道路はきちんと管理され安全が保証された状態を保ち、車にさえ乗れば誰でも通ることが可能です。その一方で道路の真下には今も深い森が広がっています。何千年、何万年と止む事なく生成される大地と私たちの暮らし。かつて私たちの祖先はその大地にわずかな道具だけで生を全うするための知恵と術を持っていました。日々刻々と変わる自然の様子をとらえて、声なき声を聞き、見えざるものを見ていた時代。自然から受け取るメッセージはどんなに豊かだったことでしょうか。

 

高速道路を象徴とする便利ではありますが常に管理を必要とする私たちの社会も、じつは太古からの生成と一体になってその上に築かれています。それがいつのまにか上に架けられた高速道路に価値があり、必要としており、その下に広がる森は遠い存在になりました。高速道路と森、本来は二つで一つの現実が、次第に一方に傾き、今では全く森と向き合う必要のない暮らしをしています。ここであらためて「森」という言葉が持つ響き、意味を見ていきますと、「森」には、木々が生い茂る豊かな自然の様子と、さらに、人の踏み入れないその原始の状態から、私たちの日常に感知出来る認識を超えた深い心の領域を象徴する言葉としての意味も含んでいます。私たちの無限に広がる心と、「森」の、自然において残された原始の状態。私たちはふたたび「森」に向かい、失いかけた一方をとりもどす時を迎えています。とはいえ日常的なこの唯物的な思考の傾きをどうしたらよりしなやかで調和のとれた心の状態にもっていくことができるのでしょうか。

 

 

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「童話の世界は、地上と天界の中間にあって、地上から天界への橋渡しをするものと考えられます」と、これはルドルフ シュタイナーがメルヘンについ述べた言葉の一部です。シュタイナーは、日本ではまずシュタイナー教育という言葉でその教育論が紹介されてきましたが、それは彼の打ち立てた人智学という壮大な学問にのっとった言及の教育の分野に焦点をあてた一部にすぎません。シュタイナーは真の人間の在り方を、古今東西の太古の英知から汲み上げられたものと照らし合わせながら、今の時代にかなった在り方を示した人です。

 

そして、メルヘン、真の童話の誕生は、人の手に寄る創作の域を超えて、発生の源を太古の時代に有している。そこでは、霊的神秘を物語ることの出来る人からよく耳をすまして聴くことで生まれたものだと言っています。難しい言葉です。よく頭に入らない言葉ではありますが、つまり、神話やグリム童話などメルヘンを読むことは、太古の時代に人々が持ち合わせていた、「森」、自然への豊かな感応、そこには目に見えない霊的な精妙な働きも感知することが出来た豊かな感受性をとりもどすことにもなると言っているのではないでしょうか。こう書くと、ますます思考を強要するようですが、森で英気を養うように、メルヘンを読むことは、心に栄養と休息を与えるということなのです。

 

たまには、何も考えないで、物語の世界に遊ぶのもいいでしょう。それは誰にとってもなつかしい再奥の故郷から授けられるよきイマジネーション。そして小さいお子さんがいらしたら、繰り返し、メルヘンや昔話しを語ってはいかがでしょうか。小さいお子さんにこそ、その故郷から汲み上げられたお話はこの世で揺りかごのように安らぎと安心を与えるものとなるでしょうから。

 

■「泉の不思議」—四つのメルヘン  ルドルフ•シュタイナー

(西川隆範 訳、解説)イザラ書房

 

■「メルヘン論」ルドルフ•シュタイナー

(高橋弘子 訳)書肆風の薔薇

 

■子どもに語る「グリムの昔話」(佐々梨代子•野村ひろし 訳)

こぐま社

 

高橋香苗 プロフィール

1984年 結婚を機に島根県の松江に移る。2004年~子育てが一段落したことと、単発のイベントを企画したことで、交友関係の質が変わり広がっていたことから、自宅の一部で本やテーブル周りのクラフトなどを扱う「DOOR」いう店を始める。2010年地元の物作り作家や友人たちといっしょに、隠れた山陰ならではものを探るために、手仕事を紹介するイベント「ひびきあうもの」を企開催。以来毎年行っている。

 

book & gallery DOOR

島根県松江市上乃木1-22-22

tel 0852-26-7846