NIWA MAGAZINE

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本の話 vol.4 文/ book & gallery DOOR高橋香苗

 

 

 

vol.4   森についての本 Ⅳ

 

風の音、森の音に耳を澄ませる

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この連載の依頼を頂いた時に、ふと頭に浮かんだのは、「森」に関する本を自分なりに選んでいくことでした。

 

すると、タイミングよくまるで申し合わせたかのように、このマガジンを立ち上げた小川さんから森の連載も始まると言われ、小川さんの、森を再考すること、そこへ帰ることの大切さを思う気持ちがNIWA MAGAZINEの「実」であると、回を重ねるごとに感じずにはいられません。

 

では、日本人である私たちが森へ帰るとはいったいどういうことなのでしょうか。この問いに、充分に答えている本として、ご紹介したい本があります。鶴見和子著「日本を開く」。—柳田、南方、大江の思想的意義。

 

タイトルからすると難しい内容を想像しがちですが、読み始めると、どうして、これが一気に読める本なのです。講演録なので鶴見さんが聴衆に語りかけている言葉がそのまま文字になっている点で読み進めていきやすいことはありますが、とにかく鶴見さんが「日本を開く」というタイトルに学者魂をかけているのでしょう、凄みというか、その勢いが読む側にも伝わり、ぐいぐい引き込まれて言葉がすんなりと入ってきます。学者としての技量、そして個人の理知。鶴見さんの捉えた論の展開が発光しながら生きた言葉になって届けられている。ご自身が個人を開いて、そこに、時代を超えて、これからも生き続けていくであろう、あるべき日本の姿を示してくれています。

 

日本は西欧を手本として、独自に急速に近代化を成功させ、発展し続けている国だと自負してきた。それに対して鶴見さんは、急速に近代化されたこと、そのために失われたことを明確にし、批判をした上で、これからの日本の行く末に「内発的発展論」という持論でもって光の見える可能性を打ち出しています。そこには、人間中心の合理主義ではなく、自然生態系に含まれる人の営み、その洞察からエコロジーを、さらに畏敬の念をともなう民間信仰のアニミズムをむすびつけ、地球を守る思想が見られます。遠野に根ざした柳田国男のアニミズム。熊野の原生林、粘菌の採集、鎮守の森、その深い洞察が壮大な知の体系を生んだ南方熊楠。そして四国の森の谷間の村の伝承に向きあう大江健三郎のアニミズムと、この三者をとりあげて、彼らが徹底して地域に根ざし、特異性を打ち出していることに、日本を内側から開く可能性を見ているのです。

 

その三者の地域へのまなざしの背後にはそれぞれの森があります。柳田の森、南方の森、大江の森と。

 

そこを明らかにすることで、いかに日本人が森を通して、その地域独自の生きた思想体系を持ち、生を豊かに形成したかが見えるのです。

 

鶴見さんは晩年、病に倒れて肢体が不自由になってから後、感性が外へほとばしるように、素晴らしい短歌をいくつも詠むようになりました。鶴見さんの社会学者として送った人生は、その豊かな感受性があるからこそ、見過ごされ、踏みにじられるものに対してつねに公正に向き合う姿勢を貫いていたのでしょう。

 

明治以降という比較的近い歴史、近代化とは何か、それによって失われたものは何か。そこを見事にガイドしてくれるおかげで、ますます、私たちが未来に向けて進むために、「森」と向き合う意味が大きくなるのです。

 

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■「日本を開く」—柳田。南方、大江の思想的意義  鶴見和子著  岩波書店

※この本は現在は版元では在庫切れになっていますが、古書としては比較的入手しやすいものです。

 

高橋香苗 プロフィール

1984年 結婚を機に島根県の松江に移る。2004年~子育てが一段落したことと、単発のイベントを企画したことで、交友関係の質が変わり広がっていたことから、自宅の一部で本やテーブル周りのクラフトなどを扱う「DOOR」いう店を始める。2010年地元の物作り作家や友人たちといっしょに、隠れた山陰ならではものを探るために、手仕事を紹介するイベント「ひびきあうもの」を企開催。以来毎年行っている。

 

book & gallery DOOR

島根県松江市上乃木1-22-22

tel 0852-26-7846