NIWA MAGAZINE

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本の話 vol.7 文/ book & gallery DOOR高橋香苗

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vol.7    森についての本Ⅶ

 

 

少し前に友人から縄文時代の人々についての興味深い話を聞きました。その時代は、男性が女性のために身につける服に刺繍をし、美しく着飾るための装身具を作っていたとのこと。人々は穏やかで人なつっこく、他部族に対してもまっすぐな興味で受け入れるところがあったので、争うことはほとんどなかったと言うのです。この縄文時代という想像を超える長い「時」に、人々は争わなかったという話。きっと、とても鋭い感度で自分たちを取り巻く自然と向き合いながら、人と人は寄り添い合って、平和なきれいな心で手を動かしていた。稲作や鉄の文化を獲得する前の人々が、そんな心根の優しいまるで天上人のようであったはずだと、思いたいものです。

 

ミナ ペルホネンというファッションブランドがあります。皆川明さんというデザイナーの名前をとったミナはフィンランド語で「私」。ペルホネンは「蝶」。「私と蝶」。その名前の響きだけでも十分に小さく、可憐で、ひそやかなものをイメージ出来きますが、実際、ミナ ペルホネンは、ブランドと呼んでいいのかと思わせるくらい、通常のブランドのもつ「力」とは異質のもので人々の心を捉えている稀有なブランドです。

 

ミナ ペルホネンの特徴、個性はというと、皆川明さんの人と成り、感性、仕事への姿勢、現代社会へのメッセージ、挑戦などがしっかりとした骨格をなしていながらも、その表現はどこまでも柔らかくしなやかで、どこかなつかしさ感じさせるものです。巨大化される現代の消費のコードにはあえてのっかろうとせずに、独自の物づくりへの情熱と姿勢を貫いてブランドを維持している。どんなにか大変なことだろうかとつい思ってしまいますが、メディアを通して見せてくれる皆川さんの表情は、いつでも穏やかな笑みを浮かべて、そう、胸に十字架のペンダントを下げていたら牧師さんかと見まごうばかりにどこか浮き世離れをした面持ちに見えます。

 

そのミナ ペルホネンの仕事の全貌を紹介する展覧会が2002年、今から10年以上も前に東京のスパイラルガーデンで行われました。今回ご紹介したい本は、その展覧会のあとに、さらに紙媒体にして伝えたいものを組み上げるために出版された本です。

 

本のタイトルは「粒子」。ぴったりのタイトルです。このブランドが人々に与える独特な柔らかさやしなやかさといった印象をさらに、この「粒子」という言葉が表現形態にいたる圧倒的な深さを思わせ、より定着させています。皆川さんの手によるイノセントな線描が、できるだけ損なわれないようにして人から人へ仕事が渡っていく様子は、物が生産されるというよりは、元になる粒子が保たれたままに最終的な物へと形成される有機的な誕生とでも言いたくなるほどです。それだからでしょう、ミナの作り出される洋服、靴、鞄、アクセサリー、すべてが今もって変わらぬ感動を与え続けるのは、この「粒子」が変わらずにあるからなのだと納得できます。

 

もちろん皆川さんはじめスタッフの方たちによるクリエーションの賜物がこの「粒子」の元なのですが、もしかするとそこには、太古の、縄文の人々が持っていた平和な優しい心と、女性を美しく飾るために手作りをしてきた魂が、遥かな時空を超えて宿っているのかもしれないと、ふと思ってしまいました。空を見上げて星の運行に音の調べを聴いて、森の中の暗闇に怖れを抱き、畏怖の思いを生きる喜びに変えるために、せっせと美しい文様を描き、美しい形象を生み出していった縄文の人々。

 

ミナ ペルホネンが産み出す物の向こうに縄文が見える、などといくらか綱渡り的な結びつきですが、新しく、かつ刺激的な表現が横行するファッションの土壌で、常に懐かしさとあたたかさのともなう感動を与えてくれるミナの秘密を解く鍵にはならないでしょうか。

 

「粒子」は、ほんとうはとてもとても遠いところからやってきている。

 

「私」「蝶」という小さな存在の不思議さと明るさを持った、ひとつのブランドの表現媒体でありながら、そこに見える示唆は大きいと思われます。その奥には何があるのだろうかと、これからもミナの行く先は眼が離せません。

 

 

 

「粒子」 ブルース•インターアクションズ 発行

「皆川明の旅のかけら」 皆川明 著  文化出版局 発行

「紋黄蝶」 年2回発行

ミナ ペルホネンの次のシーズンのコレクションを紹介する冊子

 

 

高橋香苗 プロフィール

1984年 結婚を機に島根県の松江に移る。2004年~子育てが一段落したことと、単発のイベントを企画したことで、交友関係の質が変わり広がっていたことから、自宅の一部で本やテーブル周りのクラフトなどを扱う「DOOR」いう店を始める。2010年地元の物作り作家や友人たちといっしょに、隠れた山陰ならではものを探るために、手仕事を紹介するイベント「ひびきあうもの」を企開催。以来毎年行っている。

 

book & gallery DOOR

島根県松江市上乃木1-22-22

tel 0852-26-7846