NIWA MAGAZINE

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出雲民藝紙 文/小川敦子

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出雲民藝紙ー。

それは、人の手によって生み出された、植物のアートである。

楮(こうぞ)、三叉(みつまた)といった森の植物が和紙の原料となる。最近では、紙専用に植物を栽培しているそうだが、雁皮(がんぴ)に限っては、注文を受けた分だけ、近くの森にいって収穫し、紙に仕立てるそうだ。つまりは、それだけ貴重な植物なのだ。

 

今回、松江でエキシビジョンの会場を飾るものとして、出雲で作られた和紙に、古の森の情景と空に浮かぶ月を描いたもの、と決めていた。描いてくれたのは、イラストレーターの西山ゆかさんである。西山さんのタッチは、水を多く含ませる独特の手法をとるため、「水に強く、にじまない和紙」というのが条件としてあった。そんな都合のいい和紙はないだろうと、半ば諦めていたとき、doorオーナーの高橋さんが、和紙を使いたいなら、安部さんという方が作る、出雲民藝紙がおすすめと聴く。

 

いろいろと調べてみると、写真家の方と一緒に開発されたという、印刷用の大判の紙を製造されていることが分かり、早速工房に連絡をしてみる。それは、1枚が63センチ×1メートルもある、あまり聞いたことのない、かなりの大判のサイズだった。そのサイズの理由は、後から知ることになるのだが、とにかく、その紙は、天日干しによって、白く仕立てるため、漂白剤は一切使用していないということ、水に強いことなど、突然の電話だったにも関わらず、安部さんは丁寧に応えてくれた。

 

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濃密な連日の打ち合わせと、私の容赦ないチェックも無事に終わり、西山さんは12点もの絵を無事に描き上げた。(毎回、彼女との仕事は、涙なくしては語れないのである)

会期の前に、この紙が出来上がる現場をどうしてもこの眼で見ておきたくて、安部さんにしつこく手紙を書き、見学させていただくこととなった。工房は、八雲という松江から車で30分ぐらい走ったところにある。のどかな山の風景。

 

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到着したときは、紙の成型は終わり、薪を焚いた「アイロン」で、職人さんが紙を仕上げているところだった。薪のぱちぱちと鳴る音と、柔らかな日差しが心地よい場所である。職人さんの動きに一切の無駄はなく、どんどん仕上がった紙を重ねていく。私が訪れた日は、藍色の紙をオーダーを受けて1000枚近く作っておられた。

 

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そして、別室では、若者からおばあちゃんまで、年齢層は幅広かったのだが、5人ぐらいが輪になって、和紙にする前の植物の不純物を取り除く作業をされていた。この果てしない作業を終えて、細かくした原料を水に浸し、まるで薄い豆腐を作るかのように、紙に仕立てていくのである。染色は、この時点で行うそうだ。

この工房・出雲民藝紙は、現在のオーナーである安部信一郎さんの祖父、安部榮四郎さんが開かれた。島根県という土地は、「民藝」を提唱する柳宗悦が訪れて、様々な指導を行ったことでも名高いが、安部さんもその内の一人である。漉き方、色の入れ方、仕立て方ー。和紙を芸術の域まで高めたのが、この出雲民藝紙なのだ。当時、そのような影響もあったからか、和紙をただ単に、書としてだけでなく、襖用の紙にすることで、暮らしの中に取り入れることを提案したそうだ。1枚の紙の大きさが、63センチ×1メートルというかなりの大判のサイズになった理由は、ここにある。横置きの紙を3枚貼り合わせることで、ちょうど一枚の襖のサイズになる。

 

記念館の方では、よく松江に滞在していたという棟方志功が、安部さんの和紙で仕立てた襖に描いたものを観ることができる。襖から飛び出さんばかりの勢いのある筆遣いの絵。私は、しばらくその場から離れることができなかった。棟方志功用に配合した紙を、安部榮四郎さんは一枚一枚丁寧に作っていたそうだ。紙からオリジナルで仕立ててもらうとは、アーティストしては、最高に幸せなことではないか。

 

一枚の紙から生まれるもの。

それは、手仕事の賜物であり、芸術の極みだと思うのだ。

 

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出雲民藝紙工房
島根県松江市八雲町東岩坂
0852-54-0303

公益財団法人安部榮四郎記念館
島根県松江市八雲町東岩坂1754
TEL.0852-54-1745
FAX.0852-54-1745