NIWA MAGAZINE

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水をめぐる話 文/森善之

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遠くから柔らかい風に乗って水の気配が運ばれてくる。

まるで大きな生き物の呼吸のように吹く風。

風は水と木々の匂いがした。

見渡す限りの視界に広がっている、土色に濁った巨大な河の流れ。

10数メートルもあるという河の水底。

初めて見た河の水平線。

 

 

15年も前に10日ほどの間、南米のアマゾン河に取材に出かけた。

そこでの体験が僕にとって、水に対する思索の始まりだった。

伝え聞くアマゾンの水は決して恐ろしい魔物ではなかった。

僕はその水で顔を洗い、歯を磨いて、体を洗った。

その土地の人々と同じようにアマゾンの水の恩恵に浴した。

 

帰国後、通い慣れた紀伊山地の川に出かけた。

そこは修験者たちが大切に守ってきた聖なる川。

そこで水を眺めていると、様々な妄想が湧いてくる。

 

この世界でいかなる形にも変化できるもの。

水は形というものを持たない。

液体であるが空気の中に姿を消すこともできるし。

大気の中で雲にも変わる。

雲もまた形を持たず、雨や雪にも変化する。

氷になって個体となることもできる。

油とは混ざらないが、いろんな液体と混ざり合うことができる。

なんと不思議な存在だろうか。

 

僕たち生き物は、

蛇にも魚にも鳥にも人にも虫にも変化、あるいは進化できる。

死ねば、水と同じように空気の中に姿を消す。

 

人の体の6割は水分だと聞く。

4割は土に帰るが、

残りの6割の水分と消えた命はどこに行くのだろうか?

この疑問に対して頭の中で仮説が組み上がっていった。

水が命そのものだとしたら。

水が生命体だとしたら。

命は水と同じ存在だとしたら。

 

死ねば命は水となって体を去り、

大気の中へと拡散されるか、あるいは地下に染み込み地下水となる。

大気中の水は酸素としてこの地球を取り囲んでいるから、

いつの日にかまた転生する事ができる。

もしオゾン層が破壊されたらどうなるのか?

オゾンによって守られている大気が宇宙へと流れ出してしまう。

つまり水が宇宙へと流れ出す。

一旦オゾン層から飛び出した水は、

二度とこの地球の輪廻には戻れない。

 

そんな途方もない妄想が、

透明で清冽な水の瞬時の姿の合間に、

頭の中を駆け巡っていく。

川からすくい上げたコップ一杯の水には、

僕にとって大切なビジョンが、

陽の光を受けて揺らいでいる。

それは形を持たず、いかようにも理(ことわり)に基づいて変化する。

できるならそんな風に生きていきたい。

 

 

森善之

 

写真家、1960年神戸市に生まれる。

今の時代を生きる一人の人間として、「どう生きるのか?」というこ

とを問い続けている。どう暮らすか?は「どう生きるのか?」と同

じ意味を持つ。だから日々をどのように暮らすか、を大切にしたい

と思っている。2009年から日本各地の暮らしを取り上げた冊子

「ジャパングラフ」を発刊。一年に一県を丸ごと特集して出版して

いる。個人の作品集には「うた」、「水のすみか」がある。2014年

に京都府宇治市にジャパングラフのコンセプトショップ・ナナクモ

を開設し、活動の拠点としている。

http://yoshiyuki-mori.net/

 

books&folkart ナナクモ

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