NIWA MAGAZINE

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moon light river 文・小川敦子

river

東京時代も、今いる京都も、川のそばに住んでいる。

 

春の夜、川のそばで一斉に咲き誇る桜の樹の下で、私はよく一人佇んでいた。
水の流れる音や川からの涼やかな風を感じながら、
その温かい桜の花を見つめる時間がとても大事だったのだ。

 

一年に一度だけ、その本当の美しさを魅せることのできる桜。
妖艶で、そして、清純な淡いピンクの色。
全身を使って、美しさを表現するその植物に
私はすっかり心を奪われてしまう。

 

ー私はここで生きている。
とてもシンプルだけど、桜と私は、そんなことを人知れず、
とても静かに、夜、ささやき合っていた。

 

京都に移り、やはり、川のそばを選んだ自分がいる。
河原を散歩する時間がたまらなく好きで、
一人でも、二人でも、私は川のそばを歩くと
ぐんぐん歩いてしまう。

 

ーすべては水が流してくれる。
古来と変わらず、空気の密度が濃いこの土地では
いろいろな意味で、
川がなくてはならない存在なのだ。
澱まない。
流れに逆らうことなく、すべてをあるがままに受け入れていく。

 

私は、河原を橋の上から眺め、
深呼吸をする。そうして、自分の中にあった澱みも
この川の流れとともに、消えていく。
そうして、見上げた空には、月や星が輝いている。
ああ、私はこれでいい。あるがままでいい。
素直に、自分を受け入れる。

 

川はいつも、わたしとともにある。
そして、わたしの内側にも、川が流れている。
とても静かに、ゆっくりと。
水の流れは、わたしとわたしの大切なものをつなげてくれる。
それを、ゆっくりと両手ですくい上げて、味わうように
あるがままに受け止める。わたしの内は、ゆっくりと水で満たされていく。
とても、温かく。