NIWA MAGAZINE

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五感で捉える vol.5 文/小川敦子 イラスト/西山ゆか

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私は知る。楽しかった時間の輝く結晶が、記憶の底の深い眠りから突然覚めて、今、私たちを押した。新しい風のひと吹きのように、私の心に香り高いあの日々の空気がよみがえって息づく。(中略)
本当のいい思い出はいつも生きて光る。時間がたつごとに切なく息づく。
ー吉本ばなな「キッチン」〜満月

福武書店より

 

 

 

過去を振り返ることが、辛いことも多々ある。それでも、前を向いて、生きて行かなくてはいけないと思うことの切なさ。そんな想いに、やさしく光をあてるかのような、吉本ばななの言葉。そう、想い出はいつか光にもなりうるのだということを、思い起こさせてくれる。

 

キッチンは、大好きな愛読書のひとつ。初期の頃の作品の中で、最も好きな物語が、キッチンの後編「満月」である。互いに大事な人を亡くしてしまった男女二人が、どのような心情の変化で、乗り越えて行くのかを丁寧に綴った、温かな文章。

 

西山さんは、この文章を「海に浮かぶ月のよう」とイメージし、懐かしい想い出=紅い月として表現してくれた。言葉は、やさしい月明かりのような光にもなりうるのだということ。