NIWA MAGAZINE

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五感で捉える vol.6 文/小川敦子 イラスト/西山ゆか

はしるこ

 

 

光の中を漂う時間の糸が無数に交差して、記憶の泉になっていく。小さなモノ達は自然の光のもとに連れ出して、忘れてしまった本来の姿に近づける。

「ひろしま」石内 都著(集英社刊)

 

 

広島平和記念資料館に遺された被爆者の遺品を撮影した、写真集「ひろしま」。写真家・石内都さんが捉えた、美しいディテールの布衣のイメージは、戦争を過去のものとして捉えていた私にとって、甚く衝撃的だった。過去ではなく、それは、今でも生き続けているからだ。ジョーゼットの女性らしいワンピース、ギャザーがたっぷりと施された、上質な花柄の生地のワンピース。「何十万人のマスじゃなくて、このスカートを穿いた、たった一人の女の子をもっと自由にしてあげたかった。」(インタビュー/エココロno.67より)という石内さんの言葉にも表れているように、おしゃれをして、日常をただただ楽しんでいた女の子の姿が目に浮かんでくる。

 

縫い目や加工の丁寧さを見れば、よく分かる。娘のために、母が想いを込めて作られた洋服であることが。大切な誰かのためを想って、ただひたすらに手を動かし、仕立てること。そうした美しい心が、これらの写真を眺めていると、ぐっと目の前に迫ってくる。だからこそ、「ひろしま」で起きたことが、決して他人事や過去の出来事として、捉えることができなくなるのだ。記憶は、今に生きている。「より鮮明になる記憶」と、井上ひさしさんが称するように、石内さんの写真は、だからこそリアルで美しい。

 

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