NIWA MAGAZINE

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冬青磁洗  文/小川敦子

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久しぶりの島根へのショートトリップ。

 

島根には、たいてい、人と会い、語らうために訪れる。話をしていく中で、それぞれのうちにあるものが呼応し合って、より研ぎ澄まされて、見えてくるものがあり、それはまた、私にとって、その次に進むための大切な「糧」になる。

 

この日は、松江の陶芸家である原さんを訪れることになっていた。春に立ち上げるギャラリーで行うサロンのために、白磁のカップを依頼しようと思っていたのだった。

 

伺うと、ありがたいことに、昼食の用意をしてくださっていた。透き通った水のような色彩の青磁の器が目の前に差し出される。青磁?てっきり、白磁を作られている方だと思っていたので、内心ちょっと驚いた。そんな私の心のうちを見透かしたように、原さんは言う。「青磁っていうのは、瑪瑙から釉薬を作るんだよ」と。

 

森と水の結晶である、鉱物としての石。何億年もの年月をかけて出来上がるその塊は、まさにアートであり、その土地にしかない「記憶」だと、私は捉えている。宮沢賢治が鉱物のコレクターでもあり、また、そこから受けたインスピレーションから、たくさんの物語を書き起こしてきたと知って、近頃は、暇さえあれば、石の写真ばかり眺めていたので、より一層興味をそそられた。

 

聞けば、瑪瑙を細かく粉塵にしたものを釉薬に混ぜ、そこに火が加わって、化学変化が起きて、あのような色彩と質感が生まれるのだという。「でもさ、本物を見た方がいいよ、絶対」と言って、一枚の大きなポスターを見せてくれる。水仙盆という「青磁中の青磁」と称されるほどの名品だけが集まる、特別な展示。この6枚が集まること自体、本当に珍しいことで、滅多にお目にかかれるものではないらしい。ということだけは、私でも理解できた。

 

器を愛でさせていただき、しばらくの間、その碧い色彩の世界に浸っていた。この器の色彩がかもし出してくるものは一体なんなんだろうと。内側に静かに響いてくる、不思議な感触の正体を知りたいと思った。テーブルに置かれた、その小さな湖のような皿を眺めながら。

 

 

松江から戻ったその足で、私は、早速、「本物の青磁」を見に、いそいそと出かけた。円形に小さく囲まれた、空間の中で、それぞれの碧が光っている。青磁の最骨頂と言われる、宋の時代。皇帝のためだけに作られた、その器たちは、まさに、それぞれの「記憶」を携えているように見えた。

 

大きな青磁が目に止まる。高台が取れてしまったという、その水仙盆は、まさに大きな湖のようでもあり、空の上へと広がっていくような雄大な情景が浮かび上がってくる。器の主は、この器にどんな想いを抱いていたのだろう。

 

その器をしばし眺めながら、私は、松江の宍道湖の情景を思い出していた。それは、雨がたくさん降り続いた、冬のある一日。しばらく湖を眺めていたら、空と水面の境目が見えなくなり、あたり一面、水の景色になる瞬間に出くわした。時空を超え、水の中に吸い込まれていくかのような、不思議な感覚。器を前にして、なぜか、その時の幻想的な風景が鮮明にイメージとして浮かび上がってきたのだった。

 

長い年月と様々な記憶を携えた器と大きな湖が携える透明な水。

この「水の記憶」が導くもの。次なるトリップへと導かれていく。

 

○写真は、大阪市立東洋陶磁美術館で開催された「台北國立故宮博物館 北宋汝窯青磁水仙盆」図録より。1920年ごろまでは、水仙盆ではなく、「冬青磁洗」という名称で呼ばれていた。

 

小川敦子

アートディレクター。2012年より、クリエイションの背景にあるものを伝えることコンセプトにした「niwa magazine」を編集・主宰。2017年春より、京都琵琶湖疏水近くにて、gallary&salon 碧森 AOIMORIをオープン予定。