NIWA MAGAZINE

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私の、庭。 文/鳥畑 純子

013

私が引き継いだ家は、平屋のL字型。

その一翼には、三つの和室と、それをぐるりと囲む縁側があって

座敷から低い視線で庭を臨めるよう、床高は低めに設計してあります。

 

主であった父は、数十年かけて気に入った灯篭や竹垣、水琴窟を設け

自分の好みの庭に造り込んで行きました。

時が過ぎると、100坪あまりの庭の手入れは、

老人の手に余るようになります。

楽しむ余裕を失った主は、庭が崩れて行くことを恐れるように

ひたすら樹木を刈り込んで、枝葉が伸びることを許しませんでした。

滋養を蓄えることができず、焼けつく夏の日差しに晒された木肌は精気を失い

葉陰を失った苔は赤茶けて

気が付くと、地面を覆う豊かな緑は消えていました。

白茶けた形骸を残して、父も帰らぬ人となりました。

 

精気のない荒れ果てた庭を前に

『お父様は、一人でよくここまで頑張られましたね。

ご苦労なさったと思います。』

再生工事を依頼した庭師さんの言葉に、私は父の深い孤独を感じました。

この庭の記憶を、この場所に込められた思いを知りました。

 

日本の庭といえば日本庭園。

非日常的で、完璧に維持管理され緊張感があります。

病体でありながら格闘し続ける父は、

『完璧な庭』に囚われているように見えました。

描画の才があった父のイメージは、父を縛りました。

削っても削ってもイメージどおりにならない苛立ちともどかしさ、、、

 

私の役目は、それから解放すること

熟練庭師さんたちの手で、ひと月かけて庭は息を吹き返しました。

水琴窟周辺は水の流れ、水音を感じる一角。

船に見立てた船石の傍らには、寒椿の帆が風を受け海原を進みます。

足下の飛び石から視線を上げると、初々しい若葉越しの青い空。

庭石に腰を掛ければ、天と地を繋ぐエネルギーの流れを感じます。

 

私も庭と一体になって、閉じ込められた無意識が解き放たれて行きます。

父と方法は違いますが、私も庭に寄り添い

思いを積み重ねていくことになるでしょう。

 

庭はなにかを映す雛形で、人によって見えるものは違いますが

小さくて大きい宇宙なのかもしれません。

 

 

鳥畑 純子

 

島根県松江市在住。専業主婦として過し、子供の独立を機に、縁側と庭が一体となったフリースペースを開業。「日常の少し先にあるもの」を目指している。