NIWA MAGAZINE

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香りを創る vol.10 文/Chikako

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6月のフランスの旅で、私にとって心に残る出来事があった。
義母(ママ)の愛犬ルルが旅立ったのだ。

 

空港で一年振りにママに会った時、いつもと違って顔付きが悲しげだ。ルルの調子が数週間前から良くないのだという。「せっかく来てくれたのに、こんな状況でゴメンね。」とママが言った。私達は、そんな状況だからこそ、来れてよかったと思った。

 

私達が到着した頃、ルルは変わらない様子で家中歩きまわり、日課の散歩にも毎日出掛けていた。容態が急変したのは、日本に帰国する3日前、早朝からとても苦しそうにしていた。パパはルルに付き添い、ルルは、お別れをする為に懸命にママの帰りを待っているかのようだった。ママが一時間早めに仕事を切り上げて帰宅すると同時に、病院に連れて行くと言ってすぐ家を出た。その後ルルは、大好きなママの腕の中で旅立ったのだと聞いた。ここ何日間か一緒に過ごしたルルは、ママのケアーをしっかりしてあげてね、と私達に伝えているように感じた。何も出来ないけど出来る事は、ただただママの側に居る事だった。

 

その日の夜、ママのベッドで私達は川の字になって歌番組を見ていた。音楽が響く中、言葉を交わさなくても心で想いを通わせている、悲しいけどとっても暖かい瞬間だった。文化も言葉も違う者同士が、言葉を超えて想いを交差している感じ。こういう時に言葉は本当に無力だ。
ただテレビの前で一緒に横になる事が必要で、それだけで想いは十分通じているように感じた。
その時、忘れていた遠い記憶の何かを思い出したような気がした。
本当に大切なことは、眼にみえないものだったりするのだ。

 

 

Chikako
インセンスプロデューサー、クリエーター。
多摩美術大学で染織を学ぶ。その後テキスタイルデザイン事務所にてテキスタイルデザイナーとして従事。
2012年単身フランス・グラースにあるGrasse Institute of Perfumeryにて香料や香水の歴史、調香を学ぶ。2014年7月東京香堂Tokyo-Grasseの活動開始。
http://www.tokyo-kodo.com