NIWA MAGAZINE

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香りを創る vol.11 文/Chikako

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群馬県みなかみ町のアトリエで約一ヶ月半振りに制作をしていた。前回来た時は、まだまだ景色も空気感も夏色で、虫や動物達の気配があり、アトリエにいても一人だけと一人じゃない感覚があった。が、もはやあのエネルギーは過ぎ去ったのだと感じた。これから迎える厳しい冬に向け各々備えている気がした。

 

その夜

 

時間があれば必ず行く温泉へと向かった。受付でポイントカードを渡すと「本日から、2枚目ですね」と。気付けば、常連客になっていた。ポイントカードを集める事など殆どない自分が、2枚目という言葉の響きに新鮮さを感じた。
 
週末は19時頃まで賑わっているその温泉も19時を回るとぱったりと少なくなる事がある日を境にわかっていたので、その日もいつもと変わらず数人中に居る程度だった。

 

秋になってすっかり空気感が変わったせいか、露天風呂に行くまでの道のりがやけに長く感じた。いつもは、一人では大きすぎて端のほうでくつろぐが、その日は二人先約がいた。話し声が聞こえてきたが、どうやらここで初めて出会ったらしい。一人の方が私と入れ替わるように出て、私ともう一人の方と二人になった。

 

ただ、その日違ったことは、初めてその温泉で話しかけられたのだ。その女性は東京から来て、温泉好きが高じて連休がある度に地方の温泉に行き、ゲストハウスに泊まること。宿のオーナーがこちらまで連れて来てくれたこと。みなかみ町が外国人にとっても人気のスポットであり、外国人の女性とその日ルームシェアするので、そういった出会いもゲストハウスに宿泊する醍醐味であること、などなど。
 
私にとって、その場所は、休暇というよりも制作場としていつしか身体に染み付いてしまった為、温泉は、制作後の自分へのご褒美と変わったその土地の新たな魅力を彼女を通して垣間見ることが出来た。顔は湯煙と暗闇でよくわからなかったが、ショートカットで話し声からすると活発な素敵な女性だ。その女性のお陰で、私も同じように旅行気分を味わう事が出来、心身共に暖かくなった。

 

女性は、20時30分にはお迎えが来るので、そろそろ失礼しますと、別れを告げた。彼女の余韻が残る中、リラックスしていた私だが、数分後また彼女が戻って来た。忘れ物を取りに戻られたと思いきや「暑いので、扇風機をかけておきましたから!」と一言告げて、また脱衣所に戻って行った。

 

私は、ほっこりとした気分で、一人いつものように空と川の音と秋色となった自然の香りをもう少し湯の中で楽しむ事にした。そして、誰もいなくなった広い脱衣所で、どうして私のロッカーの場所がわかったのだろうと思うくらい、丁度いい位地に扇風機が回っていた。ロッカーの番号が一つ違ってもあのように丁度、風は当たらないであろうと思う程ジャストな位地だった。

 

ほんの数分間の思いがけない出会いと心遣いに感謝しながら、いつもの温泉を後にした。

 
 
 
Chikako
インセンスプロデューサー、クリエーター。
多摩美術大学で染織を学ぶ。その後テキスタイルデザイン事務所にてテキスタイルデザイナーとして従事。
2012年単身フランス・グラースにあるGrasse Institute of Perfumeryにて香料や香水の歴史、調香を学ぶ。2014年7月東京香堂Tokyo-Grasseの活動開始。
http://www.tokyo-kodo.com