NIWA MAGAZINE

  1. exnibition
  2. trip

香りを創る vol.5 文/Chikako

金木犀

 

先日の夜、散歩をしていたら、外は何処もかしこも大好きな金木犀の香りに満ちていた。金木犀は、小さいオレンジ色の花から芳香を放つ。洋花は、見た目の存在感と同等の香りを放つように感じるが、金木犀はあの小ささで、甘く暖かい香りを出す事に私は奥ゆかしさを感じる。夜眠る頃、窓を開けたらその香りが風とともに部屋に入ってくる。カーテンが‘ひらり’と揺れる度、その香りを感じる事が出来た。この時期にしか出来ない至福の一時だ。

 

そして仕事では、ご縁あって「散華」に香りを付けるお手伝いをした。9月の悪天候により、まだ未完成である群馬県のみなかみ町のアトリエに行き、そのアトリエの片隅で製作をする事にした。みなかみ町は、温泉やラフティング等が有名で、週末となれば多くの観光客で賑わう。そんな立地にあるアトリエ近くに掛け流しの温泉があり、アトリエに行くときは、決まってその温泉に夜出向くようになった。掛け流しのその温泉は、硫黄臭も殆ど無くとてもまろやかであり、川の近くにある露天風呂は格別だ。私は約一ヶ月振りの温泉を満喫した。夜の露天風呂は決まって一人の時が多い。人の影がない静寂の中で、いつしか、いっそう自然と密着するような感覚になった。じっと外を見ていたら、日中には見えていた景色は闇の中に消え、川の音が力強く怖いくらい響いていた。そして見えなかった物達が徐々に現れる。木々が作り出す重なりは、闇で一層強調され、空がいつもより遥か遠くに感じた。

 

その時に感じていた感覚は、香りの世界でも当てはまる。見えるものでなく見えない物も大切にすると香りに奥深さと深みが出ると私は感じる。

 

想いがこもった散華を作ろうと、温泉の中で一人私は考えていた。

 

森

 

 

※散華とは、仏を供養する為に花をまき散らす事。法要に散華を行うのは、華の芳香によって悪い鬼神などを退却させ、道場を清めて仏を迎えるためとされる。元来、蓮などの生花が使用されていたが、現在は蓮の形を模った色紙で代用することが多い。

 

 

Chikako
インセンスプロデューサー、クリエーター。
多摩美術大学で染織を学ぶ。その後テキスタイルデザイン事務所にてテキスタイルデザイナーとして従事。
2012年単身フランス・グラースにあるGrasse Institute of Perfumeryにて香料や香水の歴史、調香を学ぶ。2014年7月東京香堂Tokyo-Grasseの活動開始。
http://www.tokyo-kodo.com