NIWA MAGAZINE

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香りを創る vol.8 文/Chikako

ムエット

朝方満員電車の中、私は本を読んでいた。

 

人の出入りが激しい中、下に置いた荷物の位置をこまめに動かしながら、人の出入りの妨げにならないよう、身をかがめながらその荷物を動かしている時、前に座っている素敵な女性から甘いバニラの香りがした。

 

黒髪のショートカット、白い肌、そして赤い口紅。モダンな服装が良く似合うきりりとした女性だけにお菓子のような甘いバニラの香りに少し違和感を感じた。なぜなら自分がその女性に抱く香りのイメージは、シャープな香りか、もしくはアンバー系のような甘くても重みがある香りだったからだ。この意外なギャップに私は、本に集中する事が出来なくなってしまった。

 

少し時間が経った頃、甘い香りはその女性が持つシャープさを緩和させていることに気付いた。冬の乾燥した空気がさらに甘さを引き立たせ、クリスマスのように場を暖かくする。その方が降車した後、私は交代するかのようにその席に座った。

 

甘い香りはまだそこにあり、あの女性の余韻はまだまだ色濃く残されている。既に姿が見えないはずのその女性が、香りを通して今も隣に同席しているような、そんな不思議な気分になった。

 

 

写真は、東京香堂アトリエ内の風景

ムエットから素材の香りをひとつひとつ確認している様子。香りの特徴や、バランス、揮発性などを見分けていく作業は、いつも午前中からスタートします。

 

Chikako
インセンスプロデューサー、クリエーター。
多摩美術大学で染織を学ぶ。その後テキスタイルデザイン事務所にてテキスタイルデザイナーとして従事。
2012年単身フランス・グラースにあるGrasse Institute of Perfumeryにて香料や香水の歴史、調香を学ぶ。2014年7月東京香堂Tokyo-Grasseの活動開始。
http://www.tokyo-kodo.com