NIWA MAGAZINE

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香りの詩 〜 Interview:調香師・Chikakoさん

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感覚を研ぎすまし、自然を読む

ポール・セザンヌ Paul Cézanne

 

 

調香師・Chikakoさんに聴く

インセンスのお話。

 

 

「森のささやき」。

インセンスを焚き、目を瞑る。

深く呼吸を整えながら、香りを全身で感じてみる。

森の奥深くに入り込み、空を見上げながら寝そべって

光と風に包まれながら、幸福の絶頂を味わうような

そんな風景が見えてくる。

苔の香り、土の香り、そして芳醇な果物の香り。

香りの生み出す詩は、どこまでも続いていく。

深く心に眠った、記憶が徐々によみがえり

懐かしくて、幸福で、安心しきった

その感覚を想い出しながら、子供時代に戻っていく。

祖父に連れられて、森を歩いた想い出。

時空も空間も越えて、とても深い世界に入り込んでいく。

私は、いつの間にか、心の旅をしていた。

Chikakoさんの生み出す、香りのクリエイション。

それは、古くから森に伝わる、

一編の詩を読み解いていくかのようだった。

 

 

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空間を香りで薫き染めるということは、とても贅沢で濃密な行為である。

「香水は身に纏う美、インセンスは空間の美。」

そういう香りを作りたかったのだと言う。

おじいさまの代から、お線香の会社「(株)なかほり」を家族で営んでいる。

創業80年。Chikakoさんは、その三代目に当たるわけだが、

実は、数年前まで、ずっとテキスタイルの世界に身を置いていた。

 

 

「職歴としては、テキスタイルの方が、実は長いです。大学では、染色とか織りを専攻していて。テキスタイルの会社に入ってからは、生地のための絵を描いていました。ファッション、インテリア。色んな生地をデザインして。ずっと『視覚』の世界ですね。でもね、目に見えるだけの世界を追い続けいると、自分の心と身体が離れてしまったような感覚になって・・・」

 

 

3年前、ファブリックの世界から、香りの世界へ転身。

三代目を受け継ぐことを決意した。

 

 

「インセンスの価値を高めたかったということもあります。お線香=お仏壇のイメージが、一般的には強いですよね。それを変えたくて。既にある日本的なものではなくて、香水のようなインセンスを作り出すこと。それが、私のイメージでした。」

 

 

すぐに、単身、南フランスのグラースへ向う。調香を学ぶためだ。

グラースは、香水の都とも言われ、多くの’Nez’ ネ(鼻)と呼ばれる、

Perfumer パフューマーたちが、トレーニングを行う場所でもある。

 

 

「最初は、辛いと感じることもありました。パフューマーへの道は、決して楽なことばかりではなくて。ここにいる意味があるのだろうか、とか。自問自答の日々。そんな時、アドバイスをしてくれた人がいて。ただ、この土地で過ごしていれば、分かるのよ、と」

 

 

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そう、グラースは、ファッションブランドのために、

素材を作る契約農家や工房がひしめく土地でもある。

町中から、香りが漂っている。

歩きながら、ひたすら植物たちの香りを嗅ぐこと。

その土地に立ち、体感することで、

調香という仕事の本質を学んだのだろう。

それは、素材の声、ささやきに耳を澄ませる、ということ。

素材のことを良く知り、対話を重ねることが、

調香師の仕事である、ということ。

そして、香りを生み出す素材もまた、

手仕事で作られているということも、身を持って知ることとなった。

畑で収穫された植物を蒸留し、香りのエキスとなる

エッセンシャルオイルを生産する工房と、深く関わっていく。

 

「工房は、大抵、家族経営なのです。小さな工房がたくさんあって。素材を作り出すのは、本当に大変な仕事です。手間もかかるし。でも、日々植物に接しているせいでしょうか。グラースの人たちは、純粋でやさしくて。目が透き通るように綺麗で。見つめられると、心の奥まで見られているような、そんな不思議な気もしましたね。」

 

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Chikakoさんが作る、インセンスは、

そうしたグラースの手仕事から生まれた香りと

日本の伝統技術を組み合わせたもの。

香水に使われる素材を調香し、インセンスの香り漬けを行う。

グラースの原料を、淡路島にあるインセンス専門の工場に届ける。

樹の粉に白檀などの香木の粉、香り漬け用の原料をブレンド。

樹から作られた糊でステッィク状の形に仕上げていく。

そうして出来上がった香りが、「森のささやき」をはじめとする

4種のインセンスだった。

グラースに渡ってから、はや2年。

「香水のようなインセンスを作り出すこと」を実現する。

 

 

「香りには、自分の内面が溢れているような気がします。自分の中に深く潜っていくイメージでしょうか。小さいとき、祖父からはいつも、白檀の香りがして、樹が何かをささやいていると感じていました。その記憶がこの『森のささやき』に込められています。白檀を使用したのも、祖父から香りを受け継ぐという意味合いもある。香りは受け継ぎ、受け継がれていくものだから」

 

香りとの対話は、この先もずっと続いていく。

素材を生み出す人への感謝の気持ちもある。

そうして生まれる香りのクリエイションが、一編の詩のように

ふんわりと私たちの心に届き、喜びを与えてくれることだろう。

 

取材・文 小川敦子

 

○写真は、Chikakoさんが撮影したもの。インセンス「森のささやき」は、すべて自然素材により作られている。物語性のある、極上の香り。

 

Chikako

Chikako プロフィール

インセンスプロデューサー、クリエーター。

多摩美術大学で染織を学ぶ。その後テキスタイルデザイン事務所にてテキスタイルデザイナーとして従事。

2012年単身フランス・グラースにあるGrasse Institute of Perfumeryにて香料や香水の歴史、調香を学ぶ。2014年7月東京香堂Tokyo-Grasseの活動開始。

http://www.tokyo-kodo.com