NIWA MAGAZINE

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インタビューかの香織さん

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写真(Photo):依田純子(Junko Yoda)

 

かの香織さんは、音楽家でもあり、日本酒の醸造家でもある。

宮城県にあるご実家の江戸時代から続く「はさまや酒造店」12代目を継承。

かのさんの造られた新酒を頂いたことがある。

美味しいのだけど、それだけではない。

そこには、大切な ‘ひみつ’ のような何かが

含まれているような気がしてならなかった。

心の奥底が惹かれるなにか―。

その ‘ひみつ’ が知りたくて、かのさんにお話を伺うことにした。

 

東京とはいえど、ビルが乱立するような場所ではなく、

古き良きホテルや美味しい蕎麦屋、

出版社がひっそりとあるような大人の街に、

かのさんのスタジオは、ある。

スタジオといっても、ピンと張りつめた空気は一切ない。

澄み切ったやさしい温かさにそこは包まれている。

まるで、酒蔵のように。

そして、自身をそのように変えたのも、日本酒だった。

 

現実主義で、電子音、エレキギターの奏でる音が大好きで仕方がなかった。

人がたくさん集まる家も、ブランコまでが手作りだったという田舎も、

全然好きになれなかった。

ところが、10年前。

酒蔵で、かのさんの生き方も考え方も、一変する出来事があった。

それは、ある音から感じ取った、奇跡の集合体との出会い。

<命のささやき>

蔵の中で聴こえる音―それは、麹が発酵する静かな音だった。

「これは、生きている命。ひとつひとつが生きている。」

 

kano

写真(Photo):宍戸清孝(Kiyotaka Shishido)

 

お米と水。

シンプル極まりない2つの素材を「醸す」ことで、日本酒が出来上がる。

太陽の恵みを受け出来上がったお米。森からの恵みである湧き水。

その命と会話をしながら、あるがままに生まれたものを育てていく。

 

「日本酒をつくることは、命をつくること。ひとつの魂をつくること。それは、自分が生かされていることへの感謝につながる。だからこそ、私は飲んでくれる人が幸せになるといいなって、深い願いを込めながらつくるの。願いもひとつの命なのよ。それは、味わうときにきっと伝わると思う。」

 

これが、私が感じた ‘ひみつ’ の味。

実を言うと、それを口にした瞬間、なぜか涙が出てきたのだ。

必死で人に見られないようにして堪えていたのだけど、だめだった。

かのさんの手によって、私のもとに届けられた、宮城県の命。

ここで、あまり書く必要はないかもしれない。

でも、書かなくてはいけないと思う。

 

2011年3月11日に起きた大震災。

今でも、ずっと、かのさんは様々な支援活動を続けている。

はっきりとは言葉にしないけれど、

その奥には、きっと、たくさんの悲しいこと、

失ったこと、それでも、乗り越えてきたことがたくさんある。

だからこそ、その願いは、本当は複雑で、そして、ものすごく深い。

―生きること、自分が生きていることへの感謝。

 

かのさんが、自身のひいおばあちゃんの話をぽつりぽつりとしてくれた。

「戦争で、たくさん自分の子供を失った人で。そのせいか、クリスチャンだったのよ。困っている人がいれば家でご飯を食べさせてね。履物がない人には、自分の着物を裂いて、ぞうりを編んであげたり。そういうことが当たり前の人で。だから、いつも実家は知らないおじさん、おばさん達がいてご飯を食べていてね。小さい時は、あんまりそういうことが好きじゃなかった。でもね、今はよく分かる。おばあちゃんは、毎日、太陽に手を合わせていて。お天道様に感謝する。そういう人だった・・・」

 

かのさんは、醸造家として、音楽家として、

現在、「自然のレッスン」というプロジェクトを行っている。

日本の森羅万象の世界に触れ、

視覚、味覚、聴覚、触覚、嗅ぐ―五感を磨くことで、

新たな自分を発見してもらう。

その先にある豊かな世界。色鮮やかで、自由で、楽しくて。

計算では決して生まれない世界。

 

自身が得た経験や想いを、

たくさんの人と共有したいという願いから生まれたプロジェクト。

そこには、宮城県や日本の心に響く伝統文化を応援していきたいという、

さらに深い願いも込められている。

 

 

聞き手・文/ 小川敦子

 

 

 

kaoruko

かの香織 プロフィール

バンドデビューを経て、91 年アルバム「Fine」でソミーミュージックエンターテインメントよりソロデビュー。多数のアーティストとコラボレーションに取り組む。現在までに18 枚のソロアルバムを発表。独自のアーティスト活動の他、まざまなフィールドへの楽曲提供、作詞作曲家としても活動。近年では、実家の造り酒屋「はさまや酒造店」の12 代目を継承。アーティストの視点で食の分野においてもクリエイティブの世界を広げている。震災前よりチャリティー活動に参加。一般社団法人「みやぎびっきの会」理事として音楽を通し、故郷のために、子どもたちの心の支援を中心に支援活動に奔走する日々を送る。音楽や食を通して本格的に、生涯のミッションとして、支援を主宰する。2012 年、世界中の傷ついたすべての人達にむけてNPO 法人「OVER THE RAINBOW」設立予定。自然のレッスン主宰。

オフィシャルウェブサイトhttp://www.caolina.net/

Twitter http://twitter.com/CaoliCano

みやぎびっきの会http://bikkinokai.net/

びっきこども基金http://bikkifund.net/

はさまや酒造店http://e-na.co.jp/bansui/