NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.7  文/森脇靖

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vol.7「抱える」

 

 
悩みというものをいつから抱え始めるのだろうか。
幼少期、学生時代、社会へ出て、そして親になり
気付けば様々な悩みや不安を、
すぐに解決出来そうもないことを抱えながら今日も生きている。

 

 

悩みは、自分の性格や行動、いいと思う部分も悪いと思う部分も
自分を知っていくからこそ生まれるように思う。
自分と他者。自分の家と他人の家。
自分の考えとは別に情報として得られるもの。
異なればそれだけ不安も増える。
同じであってもそれはそれで本当によいのかどうか不安になる。
このままでよいのだろうか駄目なのだろうか。

 

 

他人から見ればそれは些細な悩みなのかもしれない。
言葉にすらできないような悩みがポツポツと出てくる。
誰にも言えない。自分の中でも解決することができない。
誰かに相談したいような、相談したくないような、
判別の付かないそういう悩みや不安とともに私達は生きている。

 

 

工業系の学校に在籍していた私に就職活動の時期が迫ってきていた。
5年間共に過ごしたある学友の金髪は元の色に戻った。
パンクロックを聞いて「大人って!」と話す者もいなくなった。
個として存在していたクラスの一人一人が
皆同じ顔で、同じテンポで一つの塊のように見えた。
クラスメイト同士の間にも教室にも
何だか夢から覚めてしまったかのような不思議な風が吹きはじめていた。
目の前に迫ってくる「現実」と自分とを照らし合わせ
きっと各々がどのような一歩を踏み出さねばならないのかを悩み、
そして決断しようとしている時期だったと思う。

 

 

私は幼い頃からロボットを作りたいという夢を持ちこの学校に入った。
しかし既に私の目の前には「ロボット」も「企業」も無かった。
決断しようとする場所に立った自分の目にも心にもそれらは入ってこなかった。
迫る「現実」に向き合おうと努力する自分と、
どうしてもそこへ向かえない自分がいた。
次々に心を決め現実に向かっていく同級生から取り残されている感じがしていた。
気付けば周囲は自分が苦手に思っていた「大人」の顔をしていた。
あるいは錯覚なのかもしれない。そう思ってみても
悩みなんてないような澄まし顔で歩いているその辺の大人のように
自分からは遠い存在と捉え始めていた。

 

 

後に師事することになる師と出会ったのはその頃である。
縁あって知り合い、
放課後しばしば仕事場にお邪魔し轆轤の作業に見入った。

 

 

今まで無意識でいた器に対して特別な意識が生まれていた。
一日に何度も触れるもの、口に直接触れたりもする。
出され、盛られ、使われては洗われ、乾かされ、仕舞われ、出され。
それは自分の暮らしの中で何度となく手にしてきた身近な道具だった。
私はいつの間にか焼き物作りに心惹かれていた。

 

 

師の自宅でお酒を頂き、ご飯を御馳走になり、
音楽や映画、本、あらゆる話を伺っているうちに
私は、器というものは人がいてはじめて生まれるものだと気付いた。

 

 

作り手である人間が器に反映されている。
いやむしろ、その人がいるからこそ目の前の器が生まれている。
そこから生まれた器は作り手の生命ともいうべき想いを宿して存在する。
器を手にする人が暮らしの中でそれらを使う時、
単に道具としての食器ではなく
作り手の想いとともに暮らしているのではないか。
私はその関係を想像し、体感したことないその豊かさに心が震えた。
そうして器に対する様々な思いはどんどん膨らみ始めていた。

 

 

器という世界と、目の前に迫りくる「現実」と、
社会やら親やら自分やら学校やら他人やら、あらゆる波が押し寄せてくる。
自分が進む道はどこなのか、一体どこへ足を踏み出せばよいのか、
どうしようもない不安を、ある日私は師へぶつけた。

 

 

「お前の人生なんだから悩んだらいいじゃないか」

 

 

そんな言葉が返ってきた。
私はいつからか、大人になれば
悩みなんて無くなるのではないかと思いこんでいた。
大人になるまでに今の悩みを解決しなければいけない、と。
悩んでいる自分は何と情けなく、駄目な人間かと。
しかし師は言う。
「悩めばいい」と「抱え続ければいい」と。

 

 

悩めばいいと堂々と言われたのはこのときが初めてだった。
そんな大人に出会ったのも師が初めてであった。

 

 

生きる上で悩みがない人間などいない。
むしろ悩みがあるからこそ私達は頭を使い、
心を動かし、人と会い、学び、そうして進んでいける。
悩んでいる自分、悩み続けている自分こそ
実は一番自分らしいのではないか、と強く思った。
そして私は18歳の頃、器づくりを生業とすることを決心した。

 

 

あれから18年経つが、私は今でも悩んでいる。
しかしそれは隠したい悩みではない。
悩みや不安を抱えながら生き続けるのが私らしさなのだ。
悩めば悩むだけ自分を見つめることが出来る。
そこからもしかして見えない程の小さな一歩が出るかもしれない。
私はこれからも悩むだろう。そして自分を信じ続けるだろう。
悩み苦しむことは、私にとっては自身と向き合うということなのだ。
悩むことに終わりはない。

 

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。

(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
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