NIWA MAGAZINE

  1. exnibition
  2. trip

器を作る。思考する。 vol.1  文/森脇靖

niwa1-1

 

vol.1  小箱

 

生まれたての赤子にとって
みるもの、きくもの、ふれるもの、それらほとんどは未知のものだ。
目の前にあるものが一体何であるのか、意味というものがない。

 

だが、誰が教えるわけでもないのに知る事を欲する。
目で追う、顔を動かす、手でつかむ、口に入れる、噛んでみる・・・
自分が今出来ることを全て使って、その「もの」を知ろうとする。
そして母親が繰り返し言う言葉を聞くことで
そのものの名を知ることになる。
赤という色なのだな。
丸いという形なのだな。
つんとした匂いがするのだな。
硬いのだな。
かじってみると汁が出るのだな。
これが甘いということなのだな。
これが酸っぱいということなのだな。
これが「りんご」という名の食べてもよいものなのだな。と。
ひとつひとつ成長するとともに、物を知っていき、その、物の名を知っていく。

 

私達は最初から物の特性と、その物の名を知っているわけではなく
様々な経験や知識を蓄積していくなかで物と名を知る。

 

そうして箱のようなものにその情報を収めている。
五感を使って得た、物の味、匂い、形。
さらにそれだけでなく、その物にまつわる出来事、シチュエーション。
それらたくさんの情報が入った箱に蓋をし

「りんご」という名のラベルを貼るのだ。

 

私たちの頭の中にはこのような小箱が山ほど入っていて
それぞれの小箱がその人なりそれぞれの生活の中で繋がり
日常というストーリを生む。

 

しかしながら
私達は今、社会に生き、日々をおくるとき
たとえどこか店先で林檎を目にしたとしても
小箱を引っ張り出し蓋を開け、いちいち思い出に浸ることはしない。
私達は頭の中の小箱のラベルしか見ない事の方が圧倒的に多いのだ。

 

どうやら私達は大人になる事によって、この社会に身を浸すことによって、
物の姿を一見し、ラベルのみを瞬間的に引き出す能力を体得してしまった。

 

「りんご」を見て、
一方では小箱に貼られたラベルだけを判断して「りんご」と言い。
また一方で、りんごラベルの貼られた小箱の蓋を開け、その中を覗き見、
中に詰まっている様々を取り出し触れた上で、「りんご」と言う。

双方とも、りんごを見てりんごと発したことに変わりはないのだけれど

後者の場合、その言葉は所謂「りんご」ではなくなっているように私は思う。
小箱の蓋を開けたことにより、そのひとつの「りんご」は

まさに言葉を発した人間と深い関わりを持ちそこに存在をしているように感じるのだ。

 

私は努めて、または意識して
小箱を増やすことや真新しいものにかえることはしない。
すでにある小箱の蓋を何度も開け閉めし
何かを入れ、何かを取り出し、
時にラベルを剥がしてみたり
並んでいる箱の順序を入れ替えたりする。
またあるときは中身を全部取り出して、ばら撒いてみたりする。
自分はこのようなことを日常的に繰り返している。

 

これは結局のところ、自分自身を見つめることである。
一見無駄なように見えるこの行為を、
物と向き合い、器を作る人間として、私は大切にしている。

 

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。

(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
〒696-0314
島根県邑智郡邑南町岩屋1273-4
電話:0855-83-2177
web:http://morisei.net