NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.5  文/森脇靖

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vol.5「交わり」

 

 

 

一見して形容しようのない、
取り立てて特徴のない、なんということはない碗。
しかしながら二見、三見としていくうちに
その碗に心を掴まれグイグイと引き込まれている。
頭で捉えようとした形状や色合は次第に霧散し始め、
碗を前に、私はそれを作った陶工の人となりを感じ
性格や背格好、生活やその環境までも想像し始めている。
この碗を作った陶工の温もりに直接触れたい、
すぐにでも会いたいという気持ちが湧き立ったのです。

 

しかしそれは、どうあがいても叶わない願いです。
その碗は何百年も前に名もない陶工により作られた碗。
碗として生まれ、その後に美濃と銘を付けられた井戸茶碗です。

 

美濃井戸に出会い心奪われた私の中には
それ以来、美濃井戸が生き続けている。
碗の形状や色合が私の頭に記憶されているだけでなく、
美濃井戸を焼き上げた陶工の心、
さらには陶工その人が私の中に住み、交わりを続け
互いに意識を共有し、繋がっているかのような感覚を伴っている。
実際に美濃井戸が存在しているのは東京の五島美術館なのですが
私の心の中の美濃井戸は陶工と共に、私の中に存在し続け、常に情緒を刺激する。
井戸茶碗には、見る人間をそうさせる何かがあるのです。

 

以前私は、自分が生きるということは
自己の意識を主体としたものだと思っていましたが
美濃井戸を目にした時から、自分で生きている意識以外に
「他人の心の中で生きている私」ということと
「私の心の中で生きている他人」ということを考えるようになりました。
人との繋がりというのは、直接顔を合わせ接触をもった時に生じるのではなく、
各々の心の中に存在している人と向き合うことで生じるのではないか。
大好きな人も苦手な人も、死んだ人も生きている人も、
私の心を揺らした人間は、物は、私の心の中に住み続けている。

 

美濃井戸に出会った時の驚きと気付きは
日が経つごとに自分の中の様々な蓄積を想起させ
私と物事の繋がり、関係の再構築を促していくことになります。
私が生まれ育った環境。妻、息子たちとの暮らし、会話、日々の些細な言動。
私という一人の人間が生きる上で
関わっている様々な物事をより強く意識するようになりました。

 

物の名前、物の道具としての用途、物にまつわる様々な情報、
物が社会に対して向けている外面的な顔を見続けている間は、
私は、私にとっての物の本質を捉えることはできないと思っています。
持つべきは、その物に込められた魂や想いに、反応する目、
この物体は、私にとっていったい何なのか、という心の目なのだと。

 

物というのは、身近に、身の周りに存在するもの、日常を支える道具ですが、
それらを単に自分を取り巻く物品の一つと捉えていては
これだけ物があふれた世の中で調和など生まれるはずもありません。
道具、所有、管理。
そのような心持では、物は物として、人は人としてだけ存在し
平行線のまま永遠に交わることはないように思います。

 

あらゆる物品や人間関係の中で今を生きる私たちですが
人の作り出した物や事との関係の上に、生かされているという実感が
果たしてどれ程あるでしょうか。

 

物というものが必要に迫られて人間の作り出したものである以上
私たちがそれらに支えられて存在していることは紛れもない事実です。
石器や土器を作り始めたころからの事実です。
そうして普通に生まれてきた美濃井戸には何百年という歳月を
お茶を通して人の手から手へわたっていく力があった。
それは、その碗の作りが技巧的に優れていたからだけではなく
陶工が生き抜いた人生、日常が碗に込められていたからこそ
所持した人間はそこに宿った魂に魅せられ、
碗との間に交わりを欲したのではないか。
使い手は碗によって生かされていることを感じ、
そうやって碗と人との交わりが深まり続いてきたように思うのです。

 

私たちは世に溢れる全ての物品と深く交わることは到底出来ません。
そして交わり方のルールや方法、正解があるわけでもありません。

 

しかし例えば、
もの言わず毎日私の生活を支えている身の回りの物品全てが
私のそばからある日忽然と姿を消したら。
私が私として生きていることを実感したり、
証明することは困難なのではないかという気がします。

 

私の生活に密接にかかわっている物が自分というものを発見させ、
そうやって育った自分というものがあるからこそ、物を感じることができる。
私が物に対して積み上げた過去、そうやって存在する物と、
物の生まれた背景に存在する人を意識することが
人と物との交わりを濃くするのではないかと思います。

 

私は物を通して、私自身を見つめています。
私にとって物品はいわば生活を映し出している鏡なのです。

 

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。

(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
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