NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.6  文/森脇靖

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vol.6  「遺す」

 

 
朝、窓を開けると羽音と共に小さな蜂が入ってくる。
私が夕方の戸締りをするまでその蜂は出入りを繰り返す。
性格は穏やかで近くに寄っても特に攻撃はしない。
ドロバチという。

 

 

私が日曜大工で柱に開けたままにしておいた沢山の穴がある。
そのうちのひとつの周りをドロバチが飛んでいる。
近づいてみてみると、直径1センチ、
深さ三センチほどの穴が泥で塞がれている。
どうやらこの中に卵を産み付けているらしい。

 

 

ふらふらしながら飛んで来た別のドロバチが
重そうに何やら抱えている。
よく見ると自身と同じくらいの大きさの青虫だった。
死んだわけではなさそうだけど
何か施されたのか青虫は動けなくなっている。
そしてそのまま穴の中に連れて行かれる。
暫くすると、蜂だけでてきた。
また外から青虫を抱え穴の中へ、そんなことを何度も繰り返し、
どうやら穴の中は青虫でいっぱいになったらしい、
何処からともなく集めてきた泥で、
何事も無かったかのようにその穴に綺麗に蓋をした。
卵からかえった幼虫は
これらの青虫を糧に穴の中で成長するのだろう。
成長するために餌として運び込まれた青虫だったのだ。
そんなことを私は何となく想像していた。

 

 

何日かして、穴の中の事が妙に気になり始めた。
私は閉じられた穴の蓋を壊し、中を覗いた。
想像していた通り、穴に入れられた青虫はいなくなり、
かわりに蜂の幼虫らしきものが三匹蠢いていた。
こうして成長した三匹の幼虫が蜂になり巣立つのだろう。
そんなイメージを持ちながら、
何の気なしに、隣の穴の蓋も壊し覗いてみた。

 

 

その穴にいたのは大きな幼虫が一匹。
穴の大きさギリギリに入っている。
さっき覗いた隣の穴に蠢く三匹の幼虫が
一つに合わさったらこの幼虫の大きさと同じくらいになる。
左右の穴を交互に見ながら、私の頭は真っ白になった。
この小さな穴の中でどういうことが起きているか。
一つの穴からは一匹の蜂しか羽化して出てこない。
青虫を食べて大きくなった幼虫は、
同じように育った自分の同族兄弟をも糧にし、
穴の中で一番強いものとして蜂への羽化をまっている。
人間に対して攻撃的ではない、
どちらかといえば穏やかに見えるこの蜂は鉛筆の太さ程の穴の中で
多くの命を一身に受け自らを生きているように見えた。
自分の兄弟までも食い尽くすむごたらしさというより、
種を遺すために命懸けで成長し数々の命を受けとって生きる。
そういう強い芯を持っているように私は感じた。

 

 

私達が生きようとする時、しかしそれは自分の意思では
コントロールできない自分の上に成り立っている。
髪や爪の伸び具合、発汗、心拍、血流、異性に対する衝動。
自分というものを生きていながら、
自分の体の中でおきている様々な反応を止めることはできない。
ドロバチが、ドロバチという種を遺すために
同族に命を捧げ、また命を受け取ったように
私自身も連綿と受け継がれてきた種を遺すために、
自身の体、命を捧げているように感じた。
体とは、単に人間としての種を保存する箱に過ぎないのかもしれない。

 

 

私がもつ肉体というものは「私」として生まれ、
自分の意思で生き、「私」として終わるのではなく
受け継がれた命としての「私」である。
繋がりや自然の流れの中で「私」という生命体が生かされ、
受け取った命はまた種を遺すため次の命へと捧げる。
それは考えてできることではない。

 

 

樹が根を張り日を浴び育ち
花を咲かせ実をつけ、時がくれば倒れ朽ち土に還るのと同じように
全ての生物は一時的に大地から形を与えられたに過ぎない。
種を遺すために生き、関わり、そして肉体は形を保てずに朽ちていく。
人間として生きている「私」という肉体も大地から作られ、
大きな流れの中で今この時を、生かされているように思う。

 

 

人間が住む家も蟻の巣も蜂の巣も大きな流れの中では同列である。
それらは、意味や意識の上に形を成しているのではなく
自然の営みの上に成り立っているものだ。
私が作る器も、壺、皿という名前を付けられ存在しているのではなく
生物の一つとして生きている私から
自然の営みの流れで生まれ、器として形になるように思う。

 

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。

(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
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