NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.3  文/森脇靖

niwa3

 

vol.3 産物

 

 

 

何よりも大きなスケールと緻密さを持った自然の摂理。
そのただ中に無防備に身を浸せばじわじわと呑み込まれてしまう恐怖を

私たちは知っています。

その裏返しのように美の根源が自然の中にあることも私たちは知っています。

 

式典。ステージ上で話をしているその人の傍らには松の盆栽。
もしこれが盆栽ではではなく
直接ステージから松が生えていたとしたら

私達は違和感を覚えずにいられるでしょうか。
食堂の床に置かれた鉢植えが鉢植えではなく
直接床から木が生えていたとしたら私達はこれを美しいと感じるでしょうか。

 

食堂の床には鉢植えの木を置き、
テーブルの上には花器に活けた花を飾る。
これらは人の生活領域にあるコントロールされた自然です。
私たちは生活の中に緑を持ち込む時
それら植物が大きな自然から切り離されることを望んでいます。

 

大きな自然と切り離されている証拠、分かたれた線を人は無意識に探しています。
その線があれば私たちのいるこちら側の領域に安心してもってくることが出来る。
盆栽でいえば鉢、生け花でいえば水盤や花器は
「根はこの中に収まっています、もう根はありません」

という線引きの目印なのです。
そしてそれは人の手によって加工されたものであるからこそ判り良い。

安心の度を増す。
生活の領域において、形を、美をとらえる準備が整うのは

この線を確認してからとなります。

 

私は轆轤の水挽きの作業において眼前で形を変える陶土を眺める時
芽吹き、伸び、日ごとに成長する草木を眺めているかのような心持になります。
この工程は「生(自然)の形」が生まれるものだと捉えています。
器の形を一応は成していますが、
この時点で私自身、形の良し悪しは判断できません。
私にとっては野に根を張る草木と何ら変わらないそのままの状態だからです。

 

次の工程で高台周りを刃物を用いて加工します。
机や畳と接する輪になっている部分を削りだすのですが
この作業は水挽きの作業と打って変わって意識が入り込みます。
息を止め、手かずを掛けずに一気に削る。
刃物を用い「生の形」という素材を加工するんだ、という強い自我がある。
ですから私は削りを「加工の形」と捉えています。

 

「生の形」は「加工の形」と重なったその瞬間、

器という意味を持ってこちらに入ってくる。
そこでようやく、目に手に触れることのできる「物」となるのです。

 

加工の一手がなければ、私たちの生活の場、人間が生きている世界に
自然の息吹を持ち込むことは出来ません。
また、その美しさについて語る事さえできません。
生(自然)と、その生をコントロールするのが人間の手であり、
そのバランスの産物が「物」だということを私は強く信じています。

 

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。

(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
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