NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.4  文/森脇靖

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vol.4「制約」

 

 

 

意識的に振り返り考えてみると、例えば私が轆轤の水挽き作業で壺を作る時
樽型のように筒にした陶土を上に上に挽き上げながら

徐々に胴を張らしていきます。
成形する時の陶土はとてもやわらかいものです。
陶土の特性を無視して胴を張らせすぎると形を保つこと事が出来ず
上から押しつぶしたようにぐしゃりと潰れてしまいます。
大皿を作る時も同様に不用意に引き伸ばそうとすれば
形を保つことが出来ずに、反っくり返って潰れてしまいます。

 

轆轤の水挽き作業で、分厚く作っておいて
削りの工程で削り、薄くすることはできますが
堅く乾いてから全体のバランスに手を加えることは「生の形」を消してしまう。

 

 

建築家吉村順三は「純粋さ」というタイトルで次の言葉をのこしています。

 

「建築の純粋さとは何か、
それは建築材料を正直に使って、
構造に必要なものだけで構成することである。
柱は常に屋根を支える役割をもち、
障子の桟は造形的なパターンであるとともに、
しっかりした構造的な役割をもっている。
これらの構成は最も簡単でしかも清楚な美しさをつくり出していて、
これが私は純粋さということであると思う。」

 

 

私はこの文言を「物の形の純粋さ」というふうに言葉を置き換えて捉えています。
建築であれば建てる建物の規模や材料でおのずから柱の太さや数が決まってくる。
同様に陶土を用いる場合も、柔らかい陶土が、
ある大きさの器として形をとるために必要な構造、条件がある。
形を保つために必要な陶土の量、
そして上からの荷重を支えるための各部の形状や厚み、
それらを成り立たせる必要最低限の形が、

形として一番素直であるような気がします。
乾く前の陶土の柔らかい可塑性、すなわち原料の性質が部分部分の形を決め
これが全体の形をも司っているものだと思います。

 

例えば、目の前の木を見つめてみます。
幹から多数の枝が伸びている。
種を遺すために樹は生きています。
成長するために、より多く光合成をしたいと考える樹が
まだ細く華奢な幹に多くの枝葉をつけてしまうと、自身の存在が危うくなります。
幹より枝のほうが太い樹はまずありません。
樹は、成長するうえで先ず幹を太くすることを考えます。
そしてそれに見合った枝葉をだし成長をする。
毎年それを少しずつ繰り返します。
大きくなりたいという気持ちだけで成長するわけではなく、
樹が樹であるためには、重力とのバランスを取らなくてはならない。
目の前の樹は、重力という制約のもとに成り立っている形なのです。

 

そして同じように
私たち人間の骨格や肉付き、川の流れや山の形、鳥の飛ぶ姿。
これら数多の姿を決めた要因が重力によるものであり、この力による造形です。
そして地上でこの目に見えない力を受け育った私達は、
松を見て松、ケヤキを見てケヤキと思う。

樹を見て樹と判断しそれらを美しいと思う。
この感情は重力というものが存在している

この地球で生まれ育ち物をみる万人の目、
万人の感情に通底している括りではないでしょうか。

 

もし無重力で育った木があるとすれば、

私たちはそれを見て美しいと感じるでしょうか。
あまりにも奔放で、そして不規則で、

その姿を恐ろしいとさえ感じるかもしれません。
重力という制約の上で成り立つ形が存在する世界で生きる私達は
美意識もまた重力が存在するこの世界において共有できるものなのだと思います。

 

押せば柔らかく、伸ばせば下へ下へと向かおうとする陶土を
私は轆轤を用いて重力に身を立てる形となることを見届ける。
そうして重力の制約の上に成り立つ「生」の形が生まれる。
それは草木同様、
自身の形を維持するのに必要最低限な物だけで構成されたときに
器として、なによりも純粋な形となるように思います。

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。

(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
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