NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.18 文/森脇靖

niwa2016jan

 

vol.18  「支配」

 

元来、私は心配性で
他人から見ればどうでもいいようなこと、
また気付かないような箇所でも、気になって
気になって、その気持ちが止まらなくなってしまう。
ここ最近もそのような気持ちになり、
朝起きてから、何をするにもそのことが頭を支配していた。
それは仕事場の屋根のことである。

 

秋に隣の敷地で作業をしていた重機の一部が
製陶所の電線に引っかかり、
その電線の支柱を固定していた製陶所の屋根が少し壊れた。
気になって何度も梯子に上って屋根を見るようになった。
するといつもの心配性の自分が顔を出す。

 

製陶所の屋根はトタンで葺いてある。
トタンは鉄板でできており放っておけば錆びるものであるから
何年かおきに塗装してやる必要がある。
前回の塗装からもう何年も経っている。
しかも前回は全く知識も深めず行ってしまい、
考えないふりをしていたが、実際は不安を抱えたまま
この数年を過ごしていた。
一度頭の中に浮上した心配事は、すぐには消えない。
募り募っていた屋根への想いがくるところまできてしまった。

 

壊れた屋根を修理に来られた板金屋さんのアドバイスもあり
自分なりに塗装の知識を深め、道具を揃え計画を立てた。
錆びや汚れを落とすケレンの作業から始まった。
しかしこれがこんなにも長期戦になろうとは思わなかった。
朝早いと屋根に露が付着し塗装の作業は出来ない。
ここは山陰の山間部、段々と季節が冬に移る中で、
天気も悪くなり、晴れ間も減り。雨も降る。
屋根の上での作業時間はどんどん少なくなっていく。
作陶の合間合間に作業を進めていたものが
次第に合間ではどうにもできなくなって、
少し晴れれば屋根に上る、という日々を繰り返した。
自分の頭の中は屋根が占拠しはじめ
毎日屋根のことが気にかかって仕方がない。
家にいても天気予報を見ながら屋根の事を考え、
忘れることが出来ない。

 

ようやく作業を終えた時には、初雪が降るころになっていた。
振り返れば一ヶ月以上屋根の上で作業し、屋根のことを考えていた。
考えれば考えるほど、心配してしまう私は
考えれば考えるほど、屋根に愛着を深めていった。

屋根は作陶をしている製陶所の空間を創り出し
雨や雪をしのいでくれる役割を担っている。
屋根あってのこの空間だという想いはいつでもあって
屋根の存在を忘れていたわけではない。
それで数年前に塗装した時に、何となく知識も深めず
取り組んでしまっていたことが気にかかっていたのだろう。
私は今回は本気で屋根と向き合おうと思ったのだ。
屋根に対する感情が湧き起こり、頭から離れなくなっていた。

 

私は何かしら作陶以外にも作業の時間をとる。
それは作陶と直接関係ないことも多い。
自分の思い入れのある場所、物事に対しては
出来ることならば、自分の手で修理なり制作なりをしたいと思っている。
それは楽しいことばかりでないが
振り返ってみると、自分の身の周りの物、こと、
製陶所の建物の柱、扉、壁、草木、様々な箇所に思い入れがある。
これは、あのときの。それは、あのときの、
と、ひとつひとつにエピソードがあり、自分の中で愛着が生まれる。

 

近くの小高い場所に登って
自分で塗装した製陶所の屋根を眺める。
日を反射して屋根の銀色が光っている。
頭の中を支配していた私の心配事がひとつ
落ち着いた顔をして、頭の隅に収まっていった。

 

 

森脇靖

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。
(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗 2013.11)
*森脇さんのお宅では、2014年の暮れの頃に、女の子の赤ちゃんが産まれました。

森脇製陶所
〒696-0314
島根県邑智郡邑南町岩屋1273-4
電話:0855-83-2177
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