NIWA MAGAZINE

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器を作る。思考する。 vol.14  文/森脇靖

sinobine

 

vol.13 「忍び音」

 

 

深夜、
その鳴き声は窓越しに聞こえ始めた。
夜の闇の湿気を含み、低く重く地を這うように響いている。
しばし静寂が訪れ、私は次のひと鳴きに聞き耳を立てた。
自然と作業の手は止まり、じっと待つ。
そうしてまたひと鳴き。その鳴き声に私は安堵する。

 

美しいさえずりとはいえない。
一帯に響き渡る力強いその鳴き声を
昼間耳にした時は、いま、私が生きるこの地の木々に
青葉が出揃ったことを知らせてくれるかのようだった。
ひと鳴きするごとに新緑の山そのものが私の体を包み
体の中の正体の知れない歓びをムクムクと膨らませる。
耳から、そして皮膚から染み込んでいくホトトギスの鳴き声は
初夏の、熱を帯び始めた大気に溶け込み、色を付けるように私に届く。

 

昨年も同じようにしていたことを思い出しながら
今、この鳴き声を聞き逃すまいと暗夜に耳を澄ます。
また、ひと鳴き。
なぜだか背筋が伸びる。
また、ひと鳴き。
私はこんなにも力強く潔く自分の存在を発することが出来ているだろうか。
また、ひと鳴き。
もうすぐ夜が明ける。

 

 

森脇靖

 

陶芸家。島根県邑南町生まれ。松江高専卒業後、県の工業技術指導研究所で陶芸の基礎を学ぶ。さらに松江在住の陶芸家原洋一に師事。2000年に邑南町にて独立開窯。以降島根県内外で個展を重ねてファンを増やしている。使い勝手が追求されたユニークなネーミングの食器を手がけてきたが、数年前に地元の益田長石を配合した釉薬による独特な肌合いと色彩を完成させて以来、それに合わせて造形にも磨きがかかり、ほどよい緊張感を持った有機的で豊かなフォルムの花器、茶碗皿などを生み出している。日常の暮らしと作陶は常に同じ線上にあると語っているように幼い二人の息子と妻との暮らしを大切にしながら真摯に器作りをしている。
(紹介文/book & gallery DOOR 高橋香苗)

 

森脇製陶所
〒696-0314
島根県邑智郡邑南町岩屋1273-4
電話:0855-83-2177
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