NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.10 文/矢沢路恵

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宝物というのは、物だけじゃない。
大切な人が、どこかで頑張って生きているというそのことが、私の宝物。

 

 

以前働いていたレストランで、まさしというアルバイトの男の子がいた。彼はまだ大学生で、就職するまでの間そのレストランで働いていた。私はこのレストランの立ち上げオープニングスタッフで入社したが出来の悪い社員で、なんだかアルバイトの子達の方が、優秀だったように思う。それでも飲食業のサービスという仕事を教えなければならなかった。

 

それまで私は「サービス」という仕事を意識していたのかいないのか、ただこの仕事が好きでたまらなかった。食事をしているあるテーブルのお客様はご友人と、他のテーブルではご家族と、仕事で打ち合わせを兼ねて食事をされる方々、お一人で小説を読みながらコース料理を召し上がるお客様、カップルで仲睦まじく、あるときにはプロポーズの場面にでくわすこともあった。そのときは、緊張している男性のために最高の演出を後押ししたこともあった。各テーブルでそれぞれの物語がある、この仕事が好きだった。

 

料理上手の母の背中をみて育った。何かお祝いがあったとき、悲しい事があったとき、いつでも家に仲間達が集まったその席には、母の美味しい手料理があった。台所に立ってずっと料理をしたまま、自分は座る事がなかった。みんなの笑顔を見る事が好きだったように思う。その姿を、意識せずとも見て育った。

 

サービスというものは何ぞや、という質問を常に新人の子に考えさせた。頭の回転がはやく、すぐに出来る子もいる。また、何度やっても出来ない子もいる。お客様のテーブルに向かわせ、水をグラスに注ぐだけで、手が震え上がってしまう子がいた。三週間そのことだけを丁寧にやらせたら、なんのことはない。普通に笑顔をふりまき、お客さんと楽しく会話をしながら仕事も出来るようになった。子どもにだって誰だって、わからない事はないのだ。それを上手に説明出来る大人がいないだけだ。アルバイトだろうが社員だろうが新人だろうが若かろうが、いい仕事をしたもん勝ちだ。

 

オーガニックで国産の食材にこだわった環境をテーマにしたレストラン、というだけで新人の子に説明する資料がおそろしい量になった。しかし、それを覚えてもらわなければ、ここで働く意味がない。何故ここで働いているのか、何をしたいのか、その資料をみてもらわなければ、この会社が立ち上がったところから全て説明しなければならない。

 

まさしは大学4年生、翌年就職する先の内定ももらっていた。しかし、そのレストランに出会ったおかげで、まさしの人生が変わってしまった。渡した膨大な資料を覚え、日々そのレストランで働いているうちに、ここで働きたいと思っていったのだ。内定をいただいていた就職先を蹴り、親の大反対を押し切り、この会社へ就職したいと思ったのは、私にしてみたら当然のことかもしれないと思った。

 

私はこの会社に入社する前、飲食業の仕事に就いてはいたものの、のらりくらりと人生を送っていた。好きな店を転々とし、アルバイトというか知り合いの店を手伝って、明日のことも何も考えていなかった。学生のときにアルバイトで働いていた池袋のオーガニックレストランを取材していただいたライターさんのご紹介で、このレストランの立ち上げスタッフに参加することになった。何度も悩み考え、最初は二度お断りした。しかし、このレストランの最大の魅力は、オーガニックで国産の食材、ということだった。

 

自分のやりたいことは何だろう、さらには自分て何だろう、とまで考えた。私の考えていたことはいまになって思えばあまりにもくだらないことで、自分のことなどどうでもいいのだ。自分が頑張るかどうかなんて入社する前にいくら綺麗事を言ったところで、なんの、ほんの数ミリもやってみなければわからないことであり、私と一緒に働きたい、と言ってくれる人が大勢いるのなら、そのことだけでやっていける自信につながった。自分の好きなことなら、自分に何の取り柄もないのなら、死ぬ気で頑張ってみようと思った。

 

私は出来ない人材なりに、がむしゃらに働いた。何も無い所から手探りではじめたプロジェクトだった。はじめはパソコンにも触ったことがなかった。仕事の中で、地方の農家さんへ取材に行き、食材を集め、レストランで使用する小物類から店のオープンに関するもの全て、たくさんの生産者の方とふれあう機会があった。その全てが愛おしく、自分の全部だと思えるほど大切なものたちばかりだった。まさしの気持ちもよくわかる。何も持っていなくたっていい。完璧な人間である必要はない。人はふれあうもので成長するのだ。

 

まさしは大学を卒業し、一年間は武者修行ともいうべく別の場所で農業研修を終えたあと、この会社に入社した。まさしが大学を卒業したあと私もすぐこの会社を退社してしまったため、まさしの勇姿をみることがなかった。山食堂でまさしのつくった野菜を注文したとき、たくさんの種類の立派で素晴らしい野菜たちと一緒に、いままで育ててくれたお礼です、と書かれた丁寧な手紙が入っており、その場で泣き尽くしてしまった。

 

お椀のかたちにくぼんでいるその畑のある敷地は、20年ほど前に閉鎖された牧場跡地だったという。まさしたちがこの会社で農場立ち上げのメンバーとなり、何もないところ、というより荒れ地になっていた土地を開墾し、農地として再生するところからはじまった。丘の上からその農場を見下ろすと、まるくすっぽり見渡せる夢のような世界が広がった。土地の真ん中には沼があり、そのまわりには自然の木々が自生している。丘の斜面には太陽光発電のパネルがたくさんの陽を浴び、自然エネルギーでまかなえていることを証明した。環境、その先の循環を実践しているのである。

 

この土地の特徴は、風が強く吹き抜いて行く。この風で害虫もとばすのだろうが、茄子などの野菜は外側の肌を傷つけてしまい、葉野菜にもどうも向かないという。根菜はとかく出来がよく、冬の安納芋は信じられないくらいの糖度あり、蜜があふれだす。まさしのつくった有機にんじんを100%ストレートのジュースにしたものは、はじめて飲んだ時のおどろきを忘れられない。濃厚なのにさっぱりとし、にんじんだけでつくったとは思えないほどのやさしい味わい。

 

鶏舎では平飼いにしたにわとりを育て、根菜の葉くずや間引き野菜などを餌にしている。そのたまごの黄身は、美しくきれいな黄色いお月様の色。たまごかけごはんにして、本物のたまごの味を噛み締める。

 

日に焼けて、とびきりの笑顔で農場をかけめぐるまさしは、ほんとうにかっこよかった。歳を聞いたら、私がこの会社に入った歳と同じだった。そして、あれから十年経ったのだ。学生だったまさし。反対していた親御さんの理解を得て、いまはこの会社に入って頑張っている。何かをもらうことが全てではないのだ。大切なものは、物だけじゃない。どこかで頑張って生きているということだけで、それだけでじゅうぶんなのだ。

 

まさしは、私の宝物だ。

 

 

 

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写真は、耕す木更津農場の有機にんじんジュースと有機野菜。
まさしのつくった有機にんじんだけでつくった、にんじん100%のストレートジュース。はじめに飲んだひとくちが、おどろきの味。赤ちゃんでも、ぺろり、ぐびぐび飲んでしまう。野菜は全て有機野菜で、繊細な味。特にこれからの季節は、寒さでより葉があまく美味しくなるプチヴェールや白菜、糖度20度の安納芋、濃厚で甘みを増す冬にんじん、カブや大根、お鍋やシチューなどの料理に最適な野菜が目白押し。

 

※にんじんジュースは山食堂店内でご提供中。物販にて購入可。有機野菜の加工品のセットは、オンラインショップにて購入可。有機タマネギのオリジナルドレッシングはやみつきの味に。有機青大豆味噌はにんじんジュースも販売中。お歳暮やクリスマスのプレゼントに。
耕すオンラインショップ yahooショップにてカード決済で購入可。http://store.shopping.yahoo.co.jp/tagayasu/

 

「耕す木更津農場」
約20年前に閉鎖された牧場跡地で、閉鎖されて以降
地元関係者による維持管理がなされていたものの、面積も広いため
大半は荒れ地になっていた土地を2010年より開墾し、農地として再生するところからスタート。この土地を「次の世代も使い続けられる農地へ」との考えから、
有機農業に取り組み有機JAS認証を取得、有機栽培やエネルギーの再利用など未来につながる循環型農業を実践。太陽光発電など自然エネルギーを2012年10月に導入。
http://www.tagayasu.co.jp/
※耕す木更津農場の野菜セットの購入は一般では販売していない為、info@tagayasu.co.jpまで直接問い合わせを。

 

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

 

山食堂

 

山食堂
完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022
東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A
電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程 深川江戸資料館近く
昼=12時〜14時 夜=17時半〜21時 ※不定休

fbページ
https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958