NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.13 文/矢沢路恵

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震災後、二年が経とうとしていた。まだ三陸鉄道も復旧しておらず、雪がちらつく仙台より高速バスで大船渡に向かった。どうしても一度会いたかった方がいた。岩手県大船渡の盛駅前にあるイタリア料理店「ポルコ・ロッソ」の山﨑シェフ。東日本大震災のあと、私は思うとこあり、青山にあるGanvino(ガンヴィーノ)という岩手をテーマにしたレストランで働きはじめた。震災後に出来た店だが、オープン前、スタッフたちは大船渡の山﨑さんのところまで炊き出しの手伝いに行った。そのときの写真がいつもガンヴィーノ入り口の額の中に飾ってある。

 

山﨑さんは大船渡出身で、この地に素敵なレストランがないことから、地元愛にあふれた食材でイタリア料理店をはじめた。2011年3月の大震災で大船渡は甚大な被害を受け、街が壊滅状態だった。山﨑さんは自ら、炊き出しで支援をはじめた。山﨑さんの支援する姿に心を打たれ、全国から協力すべく大勢のボランティアが集まった。ガンヴィーノのスタッフたちも、そうだった。数ヶ月経ったあとも「復興食堂」という名をひっさげて、全国をまわり被災地の食材を販売していた。勢力的で、まわりの人もみんな元気にしてしまう人。いつか、山﨑さんに会いに行きたいと強く思った。

 

重いザックをおろし、ポルコ・ロッソのカウンター席に座った。山﨑さん、風貌はアンタッチャブルのようなしっかりした体型の強面の男性だが、笑うとピュアでチャーミングな人。気持ちよく笑わせてくれて、誰にでも優しい。店の黒板には、メニューがぎっしり書いてあった。地元でとれた帆立、メカブ、牡蠣、海の幸のゼリー寄せ、住田町のアリスポークをつかった低温ローストポーク、陸前高田・米崎のりんごのコンポート添え、アマタケさんの鶏のフォワグラ風カナッペ、北の魚・チカとりんごの重ね焼き、もっちもちの地元産しいたけがたくさんはいったボロネーゼ、朝剥いたというぷりぷりの牡蠣とほうれん草のクリームパスタ。大船渡牛乳を使ったポニョプリン。
地元の食材、この街を愛しているんだなあと伝わってくる。

 

「サービスという仕事と調理場の仕事、5:5だと思っていたけど、いまは7:3だと思っているよ。」と、初対面の山﨑さんに言われたとき、全てを悟っているかのように思えた。サービスの仕事は楽しいことばかりではなく、しんどいことの方が多いように思えていた時期に、私の心の中を読まれていた。サービスの仕事がいかに重要か、また、私が大船渡に来たことに関して、どんな想いでこの地を訪ね、どんな想いを持ち帰るのかを山﨑さんは全てわかっていたのだ。

 

店の棚に並べてあった食器の全部が落ちて割れ、流しに残っていた洗い物の皿だけ生き残ったんだと、山﨑さんは笑った。それで店が再開できたのだが、この地域が震災の時どれだけ凄まじかったのかは、その後、街を歩いて目の当たりにした。鉄骨の柱だけ残った建物、半分が削り取られたような家、津波にさらわれまっさらになった沿岸の街。酔仙の名前が入った徳利や、真っ黒に汚れたぬいぐるみが荒れ果てた地面に転がっている。そのままの日常が、当たり前の毎日が、突如として何もない街になった。何キロ先もずーっと、何もない街。ここに来ていなければ、わからなかった風景。

 

ポルコ・ロッソで地元産のご馳走をたらふくいただき、お腹いっぱいで店を後にする。熱い握手を交わし、また来るよ、元気でね、と心で強く思い手を振る。建物の陰でお互いの姿がみえなくなるまで、ふたりともずっと手を振り続けた。

 

写真は、帆立とあおさのバター焼き
ポルコ・ロッソで一際美味だったのが、帆立と牡蠣。三陸の港である大船渡ならでは、獲れたて旬の貝の旨味は絶品。生のあおさ、ぷりぷりで身がたっぷりつまった帆立、酒、醬油、バターを貝の上にのせ焼くと、途端に磯のいい香りが。最後の汁までじゅるじゅるすすりたい、贅沢な海の恵み。

 

●Porco Rosso ポルコ・ロッソ
生まれ育った地元である大船渡に「デートできるような素敵な場所をつくりたい。」と、東京のイタリア料理店、イタリアに渡り修行を経て、1998年にオープンした山﨑純さんのお店。三陸気仙とよばれる大船渡、陸前高田、住田町の旬のものをこよなく愛し、地元密着型のレストランで三陸食材の魅力を発信し続けている。

岩手県大船渡市盛町字町10-1 
 tel/0192-26-0801
昼=11:30~15:00 夜=18:00~23:00
 定休日/火曜日

 

●Ganvino ガンヴィーノ
岩手八幡平出身の遠藤シェフが、東京の名店オーバカナルやビストロなど、都会の洋食界をリードしてきた後、青山学院大学前の通りにあるトラットリア「ドンチッチョ」の姉妹店としてオープンした、岩手の美味しいものにこだわった店。(ガンヴィーノは、岩手の岩とワインのヴィーノをあわせた造語。)
岩手の郷土料理をニョッキ風にアレンジしたひっつみ、地元名産をテーマにムール貝の白ワイン蒸しや、ホワイトアスパラガスのオムレツ、岩中豚や短角牛、冷麺、岩泉のヨーグルトなども楽しめる。花巻のエーデルワイン、釜石の焼酎、八幡平の日本酒やドリンクも岩手のものが充実している。

東京都渋谷区渋谷2-2-2青山ルカビル2F 
 tel/03-6427-9880
昼=11:30~15:00 夜=18:00~24:00
 定休日/日曜日・祝月曜日

 

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂

山食堂

完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022
東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A
電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程 深川江戸資料館近く
昼=12時〜14時 夜=17時半〜21時 ※不定休
https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958