NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.14 文/矢沢路恵

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母の思い出は、蕗の香り。この時季になると青くつぶした葉っぱのような、緑の宝石のような、澄んだ透き通る蕗を思い出す。毎年、山菜のことになると目の色が変わり、手製のポケットがいっぱいついたエプロンをザックに入れ、山菜採りに山まで繰り出す。もともと長野の山を駆け巡っていたような幼少期を過ごした母、山育ちということはそういうことだ。

 

においというものは、乾燥している場所では感じない。ある程度の湿度のあるところでないと感じないのだ。春のあたたかさと、雨に濡れた大地から芽吹いたその香りが、脳裏の奥のねむっていた記憶からよびおこされる。

 

ある香りを嗅ぐと、むかしの記憶がよみがえる。目で見るよりはるかに、嗅覚から感じるものは脳の仕組みにより神経回路の情報がよりはやいことが立証されている。*
においから想いだされる感情は、いまはなきもののカタチが鮮明によみがえってくる。

 

雨に濡れた4月の空気と澄んだ緑色の山菜のにおい。
台所で楽しそうに蕗を煮ている、母の姿を思い出す。

 
 

蕗の薹の当座煮

蕗の薹を茹で一日水にさらし、出汁、みりん、醬油と煮る。鰹節を好みで。
当座=当分の間保つ(当座をしのぐ)という意味合いをもつ当座煮。佃煮のように濃過ぎず、煮物のように薄くなく、ほどよい味付けとしばし楽しむ春を告げる山菜。

 

※料理写真は、写真家の岩澤修平さんによるもの。
ご本人の人柄と同じく、優しい、じんわりと沁み入るほろりとした写真。
岩澤写真事務所

http://iwasawashuhei.com/

 

*文章中の言葉は、「においと味わいの不思議」/東原和成・佐々木佳津子・伏木亨・鹿取みゆき(虹有社)より抜粋。
におい物質の全てを化学式・データにして分析。なぜそのようなにおいがうまれるのか、そのにおいを脳で感じる伝達経路など、わかりやすく表現されている、おすすめの一冊。
矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂

山食堂

完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022
東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A
電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程 深川江戸資料館近く
昼=12時〜14時 夜=17時半〜21時 ※不定休
https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958