NIWA MAGAZINE

  1. exnibition
  2. trip

食と人 vol.17 文/矢沢路恵

image063

ヘルシーでおいしそう。

 

いつもこの言葉の意味がわからない。ヘルシーだからおいしそう、ヘルシーなのにおいしそう、ヘルシーでかつおいしそう。そもそもヘルシーという言葉は、料理を賞賛する言葉なのだろうか。ヘルシーとおいしそうが、どうも結びつかない。熊手のような山芋を刷り卸し、脂ののった鰯をたたき、生姜をあわせて拵えたつみれ汁に柚子の皮をしゃっしゃっと削り香りをうつしたお椀の方がよほど「美味しそう」という言葉がでてくるとは思うのだが。ヘルシーおいしそう、とは先ず思わない。

 

家庭料理とは何なのか。和食とは何なのか。日本の家庭で当たり前に食卓に並ぶも料理も、時代とともに変わってゆくのか。行く末の危機を感じてなのか、和食が文化遺産になる時代だ。私達は自然を切り取って生きている。山のものを摘んで、海のものを採り、動物を殺して食べる。忘れているのはそのもの自体のことではなく、食べるということに執着していないからではないか。ひじきをだして「ヘルシーでおいしそう!」と言ったものなら、普段どんなものを食べて生活しているのか疑いたくなる。

 

おいしそう、と頭に浮かぶ思考には、視覚からの情報が8〜9割、聴覚、嗅覚、触覚と別に、味覚からの情報はわずか1〜2割にすぎない。体に良さそう、健康になる、ということがおいしそうなのではないのだ。家庭料理が当然のものではなくなってきているから、体にいいと思うのである。もっと言えば、普段体に悪そうなものを食べているのが当たり前になっているので、たまたま家庭料理がでてくると、それが健康であるものと思えてしまう。肉汁が滴り落ちるような脂たっぷりの料理、野菜などしばらく食べていないのが日常の身体、ひさしぶりに家庭料理をひとくち食べたところで、どう健康になるのだろうか。本来ならば健康になるために毎日食べるものを、食生活のみだれで病気になり、家庭料理の店にやってくる人が増えてしまう。そんなことは本末転倒ではないだろうか。病気にならないために、毎日食べるのだ。言葉とて、食事とて、逆なのではなかろうか。もともと農薬をつかっているものに「有農薬」とつけるのが当然なのであって、農薬を使っていない有機のものには有料表示する決まりがある。ファーストフードがあって、スローフード。糖質脂肪に対して、ヘルシーで健康的。ついには、遺伝子組み換えでなければ、遺伝子組み換えではない。普通に考えておかしいと思う言葉が、いまでは日常になっている。

 

山菜とは何か、海藻とはなにか、それを知らなければこの世で生きて行けないとは限らないが、せめて熱々の炊いたごはんのうえに、たっぷりの出汁がしみた五目ひじきをのせて大きな口でごはんをかき込むときのシアワセは感じていてほしい。

 

 

写真は、五目ひじき
あたためた鍋に胡麻油をしき、人参、椎茸、蒟蒻、油揚げ等を炒め、水で戻しザルにあげておいたひじきを入れ、油が全体にまわったら大豆を煮たものを加え、醬油、砂糖、みりんで味付け。煮すぎるとひじきが溶けてしまうので、ほどよいところで完成させる。

(写真 岩澤修平/岩澤写真事務所 http://iwasawashuhei.com/

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

image065のコピー

山食堂

完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022
東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A
電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程 深川江戸資料館近く
昼=12時〜14時 夜=17時半〜21時 ※不定休
https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958