NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.20 文/矢沢路恵

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私がそこで学んだことは、生涯の大きな財産となった。名誉、地位、財力ではなく、学んだことや経験したことの全てが自分の頭にたたきこまれている。自分自身が大きなレシピだ。

 

ワインスクールへ通う事になったのは、何も知らないまま大人になるのが怖くなったからだった。サービスの仕事をしている中でお客様より知識のない自分に気付き、このまま40代をむかえたくないというその想いが原動力となったという情けない理由がからみ、35歳を過ぎて通う事となった。

 

何だか私はどの学校へ行っても物覚えが悪く劣等生だったが、よい先生と仲間達に恵まれたおかげでとりあえず半年だけと思っていたワインスクールに3年近くお世話になった。通っている途中でワイン愛好家になったというより、知らない事を知りたくなったからだ。そこで、ある先生との出会いが私の運命を変えた。その先生にしか教われないことがあると確信し、追っかけて幾つかの講座を受講した。「感覚だけでは、いつか行き詰まる。知識と根拠があり、はじめて理論になる」その先生の言葉は、私を突き動かした。誰にもかなわない説得力があり、経験したことの全てを教えてくれた。

 

レストランのシェフソムリエだったその先生から、料理とワインのマリアージュを学んだ。大きく分けて3つの作業がある。料理に足りないものをワインで補う。同じテイストの料理に同じワインを合わせる。料理に対してワインで中和させる。ただ、それだけの作業だけでは、全てとは言えない。ボリュームやテクスチャーを考える必要がある。例えばそれがムース状になっているのか、噛みごたえのある大きさなのか。酸ののりかたや、打ち消すのか広がるのか。

 

特に和食にはフランスには無い文化がある。海に囲まれた国故の昆布や鰹の旨味成分があり、フランスの四味四感に対し、日本は五味五感なのである。旨味の味わいは食の世界を大きく広げるものであり、そこへ柚子や山葵などの季節感が加わる。四季折々の食材がより味わいを豊かにし、酒が加われば要素が増え、尚の事脳に刺激をあたえる。

 

マリアージュというのは「=結婚、料理」とワインの組み合わせの事を言うが、「寄り添う」という意味があるようにも思う。ビールと枝豆、日本酒と魚介類の肝などは素晴らしいアテであり最高の相性だが、それはマリアージュではないのだと言う。料理にワインを近づける、ワインに料理を近づける。お互いの距離を縮め寄り添ってこそ、はじめてマリアージュと言えるのだろうか。足りないものを補い、同調し、時には干渉し合い、マリアージュという目的により近づける努力が、大切なことなのだろう。難しいことはひとまず置いておいて、一杯飲んでから考えることにする。

 

 
写真は、無花果と世田谷ありが豚(トン)の生ハム/山梨kisvin(キスヴィン)の甲州とともに。

普段、生ハムは山食堂で提供していないが、無花果の季節だけは特別。メロンともマンゴーともちがう、やわらかくはかない口溶け。ありが豚の生ハムは白い花のように香りが美しく、三元豚は脂身が綺麗。赤ワインでも勿論相性はよいが、渋みが無花果と生ハムの風味を打ち消してしまう。kisvin甲州のキレのよい酸が、ありが豚の脂をそぎ落とし風味の綺麗な後味を残してくれる。

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

 

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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目
平日・夜=17時半〜21時(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時(夜はご予約優先)
※不定休
https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958