NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.22 文/矢沢路恵

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やわらかくて、まっすぐで、愛にあふれ、折れそうになっても必死で生きている。芯からの強さはどこからくるのか。負けたっていいからあきらめない。最後まで立ち向かうその人たちとその稲を、ずっと見守って行こうと多くの人が心に思ったのだ。昨年9月の常総市で起こったその災害を、誰もが絶望的だと思っていた。2mの水をかぶってもしっかりとたっていたその稲に、希望以外の何があろうか。

 
田植えが終わり、緑の草が風に揺られる暑い夏がやってきて、稲穂が黄金に輝く収穫の秋がくる。日本の美しい田園風景は、農家があってこそなのだ。私達は農産物を食べて生き、四季折々の味覚を味わう。家庭料理を提供する飲食店であるが故、お米の生産者、農家の方々は、なくてはならない存在である。特に米はほぼ毎日食べるものであり、また新米の季節には、日本人として心が躍る。新米で天日干しの白米など、三日も食べれば舌がその味を覚えてしまい、他の米が食べられなくなるほどだ。五分づき米のおむすびや玄米焼飯、お粥に呑んだ後のお茶漬け、豆餅のうまさに舌鼓を打ち、丼ものの具の下に味がしみた米をかきこみ、寿司のにぎりや鍋の〆の雑炊に唸り、この国にうまれてよかったとさえ思う。

 
茨城・常総市で無農薬米をつくっている山﨑さんご一家とお知り合いになったのは、数年前のことだった。こんなに愛にあふれた家族を、久しぶりに間近で見た。米農家であることは、並大抵のことではない。自然との戦いで、天候が悪ければ不作、天候が良ければ豊作、日照りばかりが続いてもうまく育たず、雨が多くても出来が良くない。田植えから収穫までが毎年賭けなのである。体力こそ全ての世界で、これを毎日やっているのかと思うと尊敬以外の何も思い付かない。それでも米農家という道を選んだ人々の想いは、確実に米に伝わってくる。そんな山﨑さんの米は、小粒で旨味があり味がやわらかく、人柄と同じで何ともやさしい味である。

 
昨年9月のはじめ、関東・東北地方に大雨が襲った。連日の豪雨で河川の氾濫から洪水をまねき、ついには鬼怒川の堤防が決壊した。なんということか。山﨑さんの田んぼはそのすぐそばだった。いますぐ駆けつけたかった。誰もがそう思った。3日間、水につかったままの稲はどうしているのか。道路など通行止めのうえ現地は混乱した状況で、まだ家に取り残された人々の救出に追われている。毎日ニュースを見ることしか出来ず、山﨑さんはどうしているだろかと気を揉んだ。無事であることは確認出来たが、どうしようもなく涙が溢れ、それでもいますぐに一目でいいから会いたかった。

 
数日後、稲がたっていることを知った。皆が希望を抱き、どん底の中に光が見えた気がした。山﨑さん家族を慕う多くの友人たちの間でレスキュー隊が立ち上がった。通行止めも解除され、毎日現地へボランティア活動に向かう多くの人々。時は9月の大型連休に突入した。ますますボランティアに向かう人が多くなる中、山食堂も連休の営業が佳境に入り休む暇もないほどの賑わいだったが、それでも山﨑さんたちのことがずっと気になっていた。体は遠くへ行けないが、せめて少しでも元気になってもらおうと、ボランティアの方たちと作業の合間に食べるお惣菜を現地に向かう方に託した。連休も過ぎ、作業も終盤に差しかかる頃、運良くレスキュー隊の方の車に便乗させてもらう事が出来た。

 
途中、ぐにゃぐにゃに曲がったガードレールや、収穫後、水につかってしまいもうどこへやるでもなく日向に置かれた米俵の山、何より胸をしめつけられそうになったのは、灰色に染まった稲穂だった。本来ならば黄金色の稲穂が風になびく季節。洪水の泥がかき乱され水がひいた後、稲穂に残った粉塵の波。あたり一面がグレーだった。山﨑さんの田んぼに到着し、すぐに作業をはじめたがとにかく粉塵のすごさに驚いた。いつもの年ではありえない事だと言う。日も暮れる頃、その夕焼けの素晴らしかったこと。こんなに美しい景色の場所で、あんな悲劇がおこったとは到底思えなかった。暗くなる頃にはひゅうっーと寒い風が吹き抜け、それが「つくばおろし」だと言い、その寒さが米を一段と甘くするのだと。あの甘くてやわらかい味は、ここからくるのだと思った。

 
自然災害は、私達にそれをどうしろと言うのだろうか。悲しい結果を招く事はあってはならないことだが、いつ、どこへ、誰の元にやってくるかわからない。

 

いま私達にできることは、誰かや何かを責めたり問うことではなく、それを忘れてならないこと。そこから目をそむけてはならないのだと思う。

 

写真は、お惣菜三点盛り
少しでも元気になってもらおうと、山﨑さんたちの元へ届けてもらったお惣菜。私達に出来る事をたくさん考えた思い出となった。

【わかさぎの南蛮漬け】
出汁、醬油、酢、砂糖等で味付けした南蛮地に葱、人参、鷹の爪等を入れひと煮立ちさせたものに片栗粉をまぶして揚げたわかさぎを漬け、冷ます。(熱いもの同士を浸ける。)

 

【菜の花の酢みそがけ】
白味噌、酒、みりん、砂糖、卵黄を練ったもの(玉味噌)を練ったものに酢を加え酢みそをつくり、茹でた菜の花にかける。

 

【蒸し鶏のパクチーソース】
鶏胸肉塩と酒をふり、酒蒸しにする。パクチー、オリーブ油、塩、カシューナッツをミキサーにかけ、ペースト状にする。ほぐした蒸し鶏と合える。

 

写真/岩澤修平

 

●お米農家やまざき

http://www.okome-yamazaki.com/

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958