NIWA MAGAZINE

  1. exnibition
  2. trip

食と人 vol.25 文/矢沢路恵

image021

 

ツアーバスは盛岡へと到着し、旅の参加者と解散した後、翌日に友人のいる花巻へ向かう前に市内のホテルで一泊した。北ホテルは、東北へ泊まる際に必ず泊まる宿。10代の頃にわざわざ途中下車してモーニングを食べにきたホテルである。朝食にはどっさり盛られたホイップ。これはコーヒーにいれてもよし、パンにつけてもよし、スープにいれてもよし、サラダに盛ってもよし。岩手の牛乳は、ミルキーで、さっぱりしている。ホイップ多めににコーヒーが少し入っているくらいのウインナーコーヒーを二杯飲んで、部屋に戻り旅支度。

 

雪の中津川を眺めて街を歩き、南部鉄器の店で買い物をして、山食堂で知り合った美しい自家焙煎珈琲の喫茶「六月の鹿」の熊谷さんに会いに行く。街中の素敵なカフェ「カルタ」へ寄り、そこで店のすぐ近くにオフィスがあるグラフィックデザイナーの清水さんをご紹介いただいた。清水さんがパッケージシールをデザインされた岩手の「和一郎のはちみつ」、「四季のひとさじ」は、その後山食堂で扱わせていただくことに。なんともありがたいご縁となった。

 

盛岡より花巻行きの列車に乗り、沿岸のあたたかさとは違う、一面の銀世界となった。ああ、花巻だ。やっと来たのだここへ。東京にいた頃、同じ会社で働いていた弥江ちゃん。故郷の岩手へ戻り、その半年後に東日本大震災があったときは、どうしているか気が気で無かった。あれから二年が経ち、今回の東北旅の最後に弥江ちゃん、正康くん夫婦とふたりのこども会いに行くのを楽しみにしていた。

 

その当時、青山のGanvino(ガンヴィーノ)で働いていた際お世話になっていたエーデルワインや障害者の施設で佐助豚の焼売をつくっている銀河の里、花巻温泉近くのピッツェリアやマルカンデパートへ連れて行ってくれた。なんといっても、お家で正康くんが腕をふるいこしらえてくれた絶品料理の数々が、一週間の旅で疲れていた体にしみた。素直に本当に美味しい料理。相手の事を想って、振る舞うご馳走。何よりうれしかった。(現在は花巻にあるイタリア料理とビール、ワインの美味しい店「バダローネ」。夫婦で店を営んでいる。)

 

旅の最後に、どこか行きたいとこありますか?と聞かれ、大槌町で被災したジャズ喫茶のマスター、佐々木賢一さんのことを話した。一関ベイシーの菅原さんと出会い、釜石タウンホールの金野さんを紹介され、そこでいまは花巻に住んでいる佐々木賢一さんのことを聞き、ずっと気になっていて仕方がなかったのだと。では、行ってみましょうと車をはしらせてくれて、ありがたかった。釜石のタウンホール金野さんにカウンター越しで東和町(いまは合併し石和町)の駅をでて三軒目の被災者中古住宅に住んでいると聞いただけだったので、本当にそこにいるのかいないのか半信半疑だったが、正康くんとやえちゃんに車でその辺りまで向ってもらい、一軒いっけんゆっくり探し、やえちゃんがその表札を見つけてくれた。ここまで来たなら挨拶だけでもと、玄関先まで伺った。

 

奥から娘さんが出て来てくださり、どうぞどうぞと中へ案内される。そこまで行って断るのもなんだなと思い、では遠慮なく…といってお家にあがらせていただく。
佐々木賢一さんは、友人からはケンちゃんとよばれており、ジャズ喫茶のマスターだったら似合うだろうな…といった、期待を裏切らないそのままの風貌のお方。花巻地方の話しや、いつかまた店をはじめる事、菅原さんや金野さんから伺った話などを。震災当時の話しを伺っているうちに、港よりすぐ近くにあった店から高台へ避難している途中、おいてきた猫が心配で店に戻った奥さんを津波でなくされたことを知った。

 

クイーンのあった場所は、私が3日前に行った大槌町町役場のすぐ裏だった。海の目の前。あのとき、ここに街があったことを物語る家のあとや、公共の道であったり、半分壊れたままの店を目の当たりにした。私は言葉が出なくなってしまい、知らないでいた事を後悔した。
ベイシーの菅原さんにはじめてお会いしたのに手厚い歓迎をうけたことを話すと、あぁ、それはね、
以前は地元のジャズ好きが集まって、ジャズを聴きにみんなあそこに集まった。ベイシーにしかないあのスピーカーの音色にすっかり惚れ込んでしまったアメリカのJBLスピーカーの社長は、何度もベイシーへ通うほど。菅原さん家族も何度もアメリカへ招待された。

 

いまとなっては週末だけ全国から観光客がやってきて、店の前で記念撮影。店にはいってもみんなスマホをいじってるだけ。平日なんて、人もまばら。地元の人もやってこないし、ジャズ好きなんてまず来る事もなくなってしまった。それであいつはジャズを聴けとばかりにスピーカーから大音量を流し、店内は足元も見えないくらいにわざと暗くしている。そこへ私が重いザックを背負って、遠くからベイシーを訪ねてわざわざ会いに来てくれた。あいつはこんなにうれしいことはなかったんじゃないか、と。

 

自分の心臓をぐっとつかまれた気分だった。
そんなこと、まるで考えていなかった。会いたい、というただそれだけの想いだった。
おいしいものを食べたり、綺麗な風景を見たり、何かに出会い感動したことはあるけれど、自分が誰かの心を動かしたというのは気付かないものだ。いま思えば、今回行った先々で強く握った握手やありがとうという言葉、私が会いにいった事がみんなうれしかったんだ。そんなことに気付かなかった。私がみんなに会えたことをうれしく思っていたのとおなじように、みんなうれしかったんだ。

 

旅の最後に佐々木さんに会えたこと、本当にうれしかった。ベイシーに手ぶらで行ったと話すと、手ぶらでなんか行っちゃいけないと言われたので、そのままでは悪いと思い、その年の夏にベイシー菅原さんと佐々木さん宛に旅のお礼の気持ちを込めてお歳暮を送った。佐々木さんより、一枚のお礼の葉書が届いた。お盆の墓参りに大槌町へ戻ったが、誰もいない故郷は寂しいものがありますと。隅からすみまでびっちりと書かれた、芸術家のように、達筆な味のある文字だった。

 

自分のふるさとではないが、東北で出会ったひとたちの思い出は、永遠の財産となった。たくさんの土地を歩いて、はじめてわかった風景。私はきっとこの地へまた戻ってくる。みんなそう思っているからこそ、別れ際にあつい握手を交わすのだ。いつも心は東北にある。どこへいても、どんなときも。

 

 

国産 合鴨のロースの蒸し煮・四季のひとさじ「三種の柑橘マーマレード」添えと、
花巻エーデルワイン「Asue(アスエ)」。
今回の東北旅で知り合った、四季のひとさじの吉田さんのジャム。旅で出会った数々のご縁を、大切に胸に想う。復興支援ワインの花巻エーデルワイン「Asue(アスエ)」は、1本につき100円が「いわて学び希望基金」に寄付される。

 

合鴨の皮目を焼き、出汁、醬油、砂糖、酒で味付けした地に浸し蒸す。
蒸し上がったら地から取り出し、冷めたらまた戻し漬けておく。薄く切り、地を煮詰めたタレをかけ、胡椒を振る。(付け合わせ:菜の花・芽キャベツ)

 

Badalone(バダローネ)
できるだけ地元のもの、添加物や農薬が少ない素材をつかった旬の料理、そして季節のデザート。美味しいビールや厳選されたワインと一緒にカジュアルに楽しめるイタリアン。
岩手県花巻市大通1-15-12 1F  tel&fax 0198-29-5335
11:30-15:00 18:00-23:00
CLOSE 日曜・祝日・第2土曜
不定休・貸切あり
http://ameblo.jp/badalone/

 

image003

 

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958