NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.26 文/矢沢路恵

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梅田へ行ったのは、三年前の5月の終わり、夏のように暑い一週間だった。半年前にリニューアルされたばかりの梅田阪急店内は、9階と10階がつながっている階段の前がステージのようにひらけており、多くのお客さんがそこの階段に座りアイスクリームを食べていた。そのひらけたステージのある階の人が多く集まる催事場の仕事で、梅田にやってきた。飲食業とは異なる販売員としての仕事だったので、毎日慣れない仕事と異国の地と一週間のホテル生活で緊張し、夜はぐっすり眠れなかった。いちばんの楽しみは、ひとりで繰り出す夜の街だった。

 

最初の夜は、大阪と言えばお好み焼きとたこ焼きだろうと、ホテル近くのアーケード街にお好み焼きを食べにいった。しかし、どうしても現実に引き戻されてしまう。ここでの仕事以外をひとりで過ごしているのもあるのかもしれないが、酒を飲んでも酔えず、明日の仕事もあるので深酒も出来ない。今日の仕事と翌日の仕事を切り離せず、食事をしていても、シャワーを浴びていても、寝ている間もずっと仕事のことばかり考えてしまい、ものすごく精神的に疲れていた。明日の夜は別の場所に繰り出す事を楽しみに仕事をするようになっていた。

 

大阪に住んでいた知り合いに、美味しい店をいくつか教えてもらった。美味しい店、というよりきっとその人も私もこの店を好きだろう、という店を教えてくれたことに感謝である。先ずは梅田阪急隣りの梅田食堂街へ。飲み屋やファーストフード店、食事処や喫茶、バーからたこ焼き屋までいくつもの小さい店がひしめき合い、どこの店も人でごった返している。

 

人々が食べる事に貪欲であり、どの店も活気があることに驚いた。ひとまわり、ふたまわりもしていろんな店をのぞき、梅田の食文化を肌で感じたら、いよいよお腹が空いて来た。2階にあるお好み焼きや「きじ」は、梅田の名店。名前は聞いた事があったが、こんな場所にあることも知らなかった。毎日お好み焼きばかり食べてるなあ、と思ったがどうせひとりだし、カウンターでのんびり行こうと真ん中あたりの席に座った。

 

店内は出張中のサラリーマンばかりだった。きっと東京から仕事で来ている人だろう。お好み焼きを箸で丁寧に食べているのは東京人だからだろうと思った。いつぞや、関西人はお好み焼きを鉄板から直接へらで食べると聞いた事があり、以来ずっとへらでそのまま口へ運んで食べている。「お姉ちゃん、どこから来たの?」とカウンター越しに店のお兄ちゃんから話しかけられた。もう、このお兄ちゃんは仕事中でもすでにビールを飲んでいる。他のお客さんは、水飲んでもくもくと箸でお好み焼きをつついている。「東京から仕事で来てます。」と話すと、年の頃も同じくらいだったのでそのお兄ちゃんとは話しやすく、お互いあれやこれや話しだした。いろいろあって仕事で大阪来ているのだが、ものすごいストレスで眠れず、毎晩仕事が終わると梅田の街へ繰り出すことが楽しみになり、ここきた事を話した。

 

「まあ、いろいろあるよなあ。」と、はじめて会ったそのお兄ちゃんとビール片手に語り合った。この店の親父さんはこのお兄ちゃんのお父さんであり、一生かかっても親父にはかまわないなんて身の上話をしてビール二杯飲んですっきりした。この店のメニューで気になっていたことを聞いた。ちくわやすじ、こんにゃくのお好み焼きがある。東京でお好み焼きといえば豚玉か、イカ天、ミックスなどたくさん入っているものしか知らなかった。大阪は安い食材で美味しく食べる文化なのだと知った。安く美味しく食べるのが家庭料理、所詮、安くて美味しいは基本であるのだ。関西の粋を感じる。

 

翌日、そのまた翌日も仕事が終わると夜の街へ繰り出した。曾根崎町、北新地、梅田の駅地下。どこへ行っても人の活気が凄かった。梅田の駅地下にある串カツの立ち飲みの屋台は、狭いところに肩を並べて明るいうちからからおっさんたちのたまり場だ。曾根崎町は街中の灯りがまぶしく、どこから人がこんなにやってくるのだろうと思った。北新地は新宿の歌舞伎町のようで、歓楽街はキラキラして何もかもが生き生きとして見えた。「香川」といううどん屋に毎晩通い、おでんを三種類つまんでビールを一本、〆にうどんをすすり、もう常連気分だ。どの店に行っても、店にいる人々がみんな笑顔だ。明日もがんばろうと思う。

 

大阪滞在中の一週間の間、一日だけ休みがあった。梅田食堂街の「きじ」のお兄ちゃんに、梅田スカイビルの姉妹店で親父が焼いているので行ってみるといいと言われ、休みの日に行ってみた。日曜日だったので親父さんは店に立ってはいなかったが、きじはここも人気ですごい行列、すごい熱気だった。東京へ戻り、たまたま丸の内で食事をする機会があり、丸の内地下街にあるきじの姉妹店へ入った。ここもすごい人気で、ほぼ満席、通されたのはカウンターの席だった。鉄板からへらで食べていたら、梅田で食べたお好み焼きがやっぱり美味しかったなあと思い出し、また次の週も梅田へ行きたくなった。

 

明るくて楽しくて、元気のでる場所。梅田へ行くまでは気付かなかった食文化の風景。今度はちくわとこんにゃくとすじのお好み焼きにしようと、あのきじの鉄板を思い出す。

 

写真は、蒟蒻と椎茸の山椒煮

安い食材で美味しく食べる、その心意気さえ愛おしく思う。いつもこの時季になるといつも大阪へ行きたくなる。蒟蒻は湯でこぼして灰汁をぬく。干し椎茸を水で戻しておく。干し椎茸の戻し汁に蒟蒻、実山椒、刻んだ椎茸をいれ、沸いたら灰汁をとり、砂糖、味醂、醬油で味を付け、汁がなくなるくらいまで煮る。

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958