NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.28 文/矢沢路恵

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はじめてアリシアに会ったのは、もう10年も前のことになるだろうか。当時、私が勤めていた会社は環境をテーマにし、消費する社会を考えた商業施設であった。消費する、ということはとても大事である。大きな期待と希望がよせられたその会社のレストラン部門の立ち上げを行い、会社のコンセプト、そして理念を理解し、グランドオープンしてからも意欲的に仕事に取り組んでいた。その会社のプロジェクトの一貫であるワークショップは「肌で感じる」ことにもっと精力的になろうと、各部門で企画を行っていた。結局のところ、ながめているだけではわからない、体感して感動を呼び起こそう、ということである。

 

とはいえ、皆が日々の業務に忙殺されていた。なんせ立ち上がったばかりの会社である。しかし、手探り状態ではじめた会社であるが故、まだ見ぬ世界に夢はふくらむ。障害よりも前を見ていた時期だった。企画会議の定例会で「アリシアをハワイから呼ぶ。」ということが持ち上がった。みんなが大好きなアリシア。私はどこの誰だか知らなかった。ましてやハワイから呼ぶほどのすごい人なのか、何をして生きている人なのか、何がそんなに有名なのか。アリシアに出会うまでは、その存在すらわからなかった。

 

会社の取り組みはレストラン業務と平行して進んでいく為、多忙を極めていた。その中で企画されたのが「アリシアとレストランスタッフでキャンプをする。」ということだった。ただでさえ忙しい上に、アリシアという人も誰だか知らない。さらに、知らない相手とキャンプをするというのだ。アリシアを語るには、都会の中ではダメらしく、自然の中で体感しようという試みである。そして、レストランの営業もあるのでスタッフ全員で行く事は出来ず、2人の参加者が選出され調理場からひとり、そして立ち上げから参加し会社の理念をよく理解している私が同行する事になった。

 

そんなこんなでアリシアが日本に来日、ミーティングの現場ではじめてアリシアと対面することになるが、レストランが昼の営業中だったので事務所のソファで待ってもらうことにした。数分後、事務所のスタッフが慌てて降りて来た。アリシアに何を飲むのか尋ねても、「カフェインは飲まない、乳製品も摂らない、砂糖も口にしない。」と、まるでクイズのような事を言われて、困ってしまったのだと言う。

 

事務所にはコーヒー、紅茶、緑茶などしかなかったように思う。私はわかった、とだけ言い、ちょうどストックしておいたローズヒップとカモミールのハーブティをブレンドして、蜂蜜を入れたものをつくって事務所のスタッフに渡した。今度は内線がかかってきて、アリシアが美味しいからおかわりしたいのだと。私はふっと笑ってしまい、またおかわりしてもいいように少し多めにつくって持って行った。次は事務所の人間が降りて来て、あのドリンクが本当に美味しいから、日本に滞在している間ずっと持って歩きたいのだと言う。各地方を回る際、アリシアはそのドリンクを水筒に入れて持ち歩いた。

 

アリシア・ベイ・ローレルはカリフォルニア生まれで、高校を卒業後、全米をヒッチハイクで旅して回った後、北カリフォルニアにあるウィーラーズ・ランチというコミューンに辿り着いた。そこでは広大な土地に100人ほどが生活し、人や者を損なわない、非暴力主義の信条に同調出来る人なら誰でも参加出来ると表明し、畑をつくり馬や牛、鳥を飼い、電気も水道もない中で自由な暮らしをしていた。そこには様々な知識や生活の知恵を持っている仲間が集まり、アリシアはその方法を紙に書いてコピーして、みんなに配ろうとした。

 

しかし、仲間全員に配るのにコピーするのが大変だからと、本に刷ればいいのだと気付き、アリシアがこのコミューンの中で学んだ生活の知恵をまとめた本「地球の上に生きる」は世界各国で翻訳され、自然の中で集団生活を行い、哲学や思想、サンフランシスコのヒッピー・コミューンの生活の知恵を多くの人が知る事となった。1970年に出版され、1972年には日本語でも翻訳された。

 

その2年後の1974年、宣伝のために日本を訪れたアリシアは帰りに立ち寄ったマウイ島に魅了され、その後30年余りをハワイで暮らした。鳥とうさぎとお話が出来るアリシア、ドライフルーツとナッツが大好きで、一緒にキャンプへ行っても自然の中にとけこみ、ハンモックに揺られている可愛らしい姿を見ていると少女のまま大人になったような気がした。名前のベイ=ローレルとは本名ではなく、大好きな木・月桂樹のこと。自分の好きな木を名前にするなんて素敵だなと思った。

 

数ヶ月後、松本にある市民芸術館で運良くアリシアのライブに行く機会があった。サイン会もあったのだが付き添いも誰もおらず、私は英語が出来ないが、どうしてもアリシアと話しがしたいので思い付く限りの英単語をならべて語りかけた。「あのときのローズヒップティーをつくったのは、私です。」と、まるで英会話の教科書の見本のような、きっと文章にもなっていないような恥ずかしい言葉であったと思う。サインをしてくれた本には「Thank you for oishi rosehip tea ! Alicia bay laurel☆」と書いてあった。

 

だれかになにかを伝えたい、という気持ちを強く思った。だからこそ言葉をのせ、本が出版され、それが世界中で翻訳され、誰かのこころに響いたのだと思った。アリシアに出会っていなかったら、きっとこんな気持ちになっていなかったと思う。何かに逆らったりせず、まわりを笑顔にする力、不幸を回避する能力を備えもっている。決まったペースなんてものは何もないのだ。自分の思うペースで進めばいい。

 

「地球の上に生きる」のアリシアの原画は、出し惜しみすることなく販売された。モノに執着する生き方はやめたのだと。アリシアのその生き方のスローさと潔さに、自分の歳をとった姿を重ね合わせたら、なんだか歳をとるのが楽しくなった。

 

 

 

写真は、沖縄産パイナップルと伊江島ラムのモヒート

しょうがのせんじ汁、絞りたてのパイナップルジュースは喉の痛みに効く。蚊はハッカのにおいを嫌う。薬草の使い方や、森の中での生活、コミューンの仲間とうまくやっていく方法、道徳や哲学、全てこの本で知った。忘れていた何かや大切なことを、教えてくれた本だった。

 

熟したパイナップルを1㎝角にカットしたものを冷凍しておいたものを12~3個グラスに入れる。ラム酒を好きな量グラスに注ぐ。ジンジャーシロップ(水、生姜、甜菜糖、シナモン、カルダモン、クローブ、鷹の爪などで煮詰めた液)、国産レモン1カットを絞り、大量の国産ミントを入れ、氷、炭酸を注いでミントをつぶし香りをたたせて飲む。

 

 
矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958