NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.3 文/矢沢路恵

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ただ、知らない事を知りたいだけなのである。気になった途端に居ても立ってもいられない性分で、何がどうなっているのかその地に足を運び、自分の目で確かめない事には実感がわかない。リアルでないと、生きているカンジがしない。

 

杉本さんのお茶をはじめて口にしたとき、このお茶畑に行ってみたくなった。そのお茶は、透き通った綺麗な黄緑色だった。そしてやわらかく、淡く、こころに沁み入る自然の味。もう私の頭の中は、このお茶畑の事しかない。

 

5月のゴールデンウィークが過ぎた頃だったか、新茶摘みのお手伝いをさせてもらえることになった。静岡県島田市金谷。牧ノ原の大地はSLが走り、見渡すかぎり茶畑が続く、お茶の一大産地。お茶の工場が隣接する杉本さん宅へ。挨拶を手短に済まし、息子の鋭悟くんの軽トラに同行し、向った先は茶畑のある山の上だった。その景色をみたとき、思わずうわ〜!と声がでた。遠くまで続く、黄緑色の茶畑。そして、こんなに山の上なんだ、と思う程のどんどん登って行く山の上。私の知る茶畑は、平地でまんまるいお茶の木が連なっている様子。こんなに険しい斜面にあるお茶の木は、それまで知らなかった。

 

急斜面を何度も駆け上がり、お茶の葉を苅り、何十キロもある葉を入れた袋を背負いトラックに積む。またその急斜面を何度も駆け上がり−−−手伝いに来たとはいえ、さすがに3回駆け上がって降りただけでへとへとになった。

 

休んでていいよと甘やかしてもらい木陰で休んでいると、茶畑すぐ脇の涼しい場所、カッコーや何かの鳥の声が聞こえる。目の前を青緑色の羽根がついたキジのような動物が歩き、山道にはタヌキか何か生き物の足あとがある。ここは自然そのものなんだ。平地でまんまるの茶畑は、人間の都合でまんまるの形になっているらしい。苅る事、急斜面で何度も運ぶ手間を考えれば、この苦労をしなくて済む。そして街でみた茶畑の濃い緑色は、農薬や化学肥料散布によるものなのだということも。

 

20数年前、杉本さんは周囲の反対を押し切って無農薬でお茶を栽培しはじめた。当時、無農薬で茶をつくるなど有り得ない事だった。慣行農業が主流の世の中で少しでも変わったことなどしてしまえば、その農家の家族は村八分にされ、笑い者になる。実際、無農薬で茶をつくっている変わり者がいると、杉本さんの茶畑を見に来る人もいたほどだった。朝昼晩、食事の度に両親と言い争いになる。無農薬なんて馬鹿な事はやめろ、実のお父さんに何年も言われ続けた。毎日家族が喧嘩をし、小学生だった長男はノイローゼになってしまった。それでも無農薬茶をつくり続ける杉本さんの決心は固かった。

 

工場に戻り、さっき茶畑で集めてきたお茶の葉を機械で蒸して乾燥させ、炒る。奥さんが出来あがったばかりのお茶を手のひらにぎゅっと握り、熱々のお湯でいれてくれる。そのお茶の美味しさは、言葉にならない。こんな旨いものが世の中にあるのかと思った。

 

夏も近づく八十八夜。自然そのままに出来る新茶の時季は、5月に入ってから。杉本さんご夫婦、後を継ぐ長男の鋭悟くんはじめ、4人の息子たち。家族総出で待ち構える新茶の季節がやってくる。黄緑色の茶の葉が風になびく、あの素晴らしい季節。

 

 

写真は茶漬け(山食堂にて)
ごはんに熱々の茶をかけ、漬物など味の濃い副菜と合わせ食される。炊きたての飯を保温する技術の無い時代、美味しく食べられる方法であったとされる。また当時、奉公人や農作業をする人々が忙しい仕事の合間、手短にすませられる食事ともされていた。山食堂では、庄内産玄米、山ワサビの醬油漬け、矢本の塩海苔、玄米あられ、炒り白胡麻、杉本園の玄米茶とともに。酒の後に、もってこいの〆ごはん。

★杉本園 ― 「安全は自然の中にありました。」をキーワードに平成5年から農薬・化学肥料は一切使わずお茶作りに取り組んでいる。一般的な緑茶が飲めない化学物質過敏症の方やアレルギー性鼻炎の方にも定評があり、安心で安全なお茶として、全国に送り届けている。http://www.ochafarm.com/

 

 

※4/30~5/11まで新宿伊勢丹本館4階で行われる

「おへそ的、買い物のすすめ展Vol.3」

山食堂出店ブースで杉本園の玄米茶+庄内産玄米+矢本の塩海苔の茶漬け三点セットを販売予定。

 

 

矢沢路恵

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂

 

山食堂

完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022
東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A
電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館近く
昼=12時〜15時 夜17時半〜21時半 ※不定休

fbページ
https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958