NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.31文/矢沢路恵

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器を継ぐ 2

 
 
思わぬことで割ってしまった器。ある人からは、こっぴどく怒られた。またある人からは、その器が自分の身代わりになってくれたと思うのよ、と諭された。自分の身代わりになってくれたと思うその器を、放っておける勇気があるだろうか。想いがあるから、繕うのだ。大切なものだから、長く使おうと思う。
 
「繕う」という方法は、「一瞬の命を留め置くもの」。所謂、金継ぎとよばれる器を継ぐ漆や鎹(かすがい)の繕い方法は完璧な修理ではなく、割れたら繕って大事に使うこと。日常的にまた使い、剥げたり欠けたりしたら繕ってまた大事に使う。一瞬の命は、そうやってつないでいくものなのだ。
 
器を継ぐ事を学んで半年、次の二期目で大皿の繕いにとりかかった。お知り合いの陶芸家・平林昇さんの備前焼で土がしっかり重く、床に落ちて割れてしまい全部で10パーツにわかれ、パズルのようにバラバラになってしまった。これをうまく継げるのかどうか心配だった。ただ、どうしてもそれを継いでみたいという想いで挑戦してみようと思った。前期で繕い方の手始めは習ったとしても、大きな割れはさすがに作業が多く大変だった。割れた部分が全て線となり、割れた箇所の線の多さで仕上がりの印象がまた違う。なんといっても仕上がりの美しさに意味があり、何層も漆を重ねる作業にもいままでの全ての工程がひびいてくる。どの工程にも言える事だが、作業や始末の丁寧さが重要である。雑な掃除や道具の扱いの悪さからは、いいものが生まれない。ひとつひとつ気持ちをもって続けること。手作業の良さでもあることは、そういうことだ。
 
繕いの仕上がった器は、想いの塊である。バラバラに散って行った破片は元の器のかたちに絵を描いたようで、仕上がりの線は模様のようにやさしい弧を描き、静かな漂いを醸し出していた。手前味噌だが、想いがあった分うまくやれたように思う。
 
何かを壊してしまったのなら、また繕えばいい。もうダメだと思っていたものにやり直しがきくのなら、自分の身を削ってでも取り戻したいと思う。大切なものを取り戻せたときの感情は決して傲慢な気持ちではなく、欠けた月が静かにこちらを見ているような、夜の帰り道にほっと一息つく達成感だった。

 

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写真は、皮剥ぎの味醂干し

10パーツに割れてしまった器を継いでいる途中、教室に持って行く電車の中で思いがけず割ってしまい、13パーツになってしまった。絶望的な気持ちになったが、なんとかくっつけてみたらまるで水の波紋の様に線を描いた。金仕上げにするほど金銭的に余裕もなく、焼錫(やきすず)仕上げにしたところ、アンティークのような風合いになった。皮剥ぎの皮は固くざらざらとし、サンドペーパーにするほどなのだという。器繕いの際に漆を塗り、乾かした表面をなめらかにするために使用する耐水ペーパーのようだと思い、皮を剥いだ皮剥ぎの身をその器にのせたら面白いなあと小さな優越感にひたった。
皮剥ぎの頭をとって皮を剥ぎ、そうじする。塩をして少し置き、拭いたあと醬油、味醂、酒、肝を裏濾したものを入れた汁につけ、網で焼く。すだちを添える。

器を繕う講座/折形デザイン研究所
http://origata.com/lesson/course_000462.php

器/平林昇

 

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958