NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.32 文/矢沢路恵

 

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器を継ぐ 3

 

器を繕う講座の第三期目に通おうかどうしようか迷っているうちに、恐ろしく酷い漆かぶれになってしまった。腕や手の皮膚のうすいところ、首や唇まで赤く腫れてしまい、痒くてかゆくて夜も眠れず悶え死ぬかと思うほどだった。今期の講座は断念することに。教室に一年通ってもなんともなかったのに、店で漆継ぎをするようになり、ちょっとした不始末で手首に漆が付着したことをこの上なく後悔した。後悔したからといってすぐ漆に触る事は出来ず、しばらく漆継ぎはお預けとなった。
 
それでも漆継ぎへの憧れは強く、寝ても覚めてもそのことばかり考えていた。ちょうどその頃、銀座にある金を売っているお店「金座」の店内の一角にあるギャラリーで、うつわつくろいこまやの樋口明美さんの展示があることを先生に教えてもらった。樋口さんは先生の友人でグラフィックデザイナーだったが、金継ぎに魅せられて金継ぎ職人となった方。螺鈿(らでん)とよばれる夜光貝を薄く削ったものを貼付ける細かな手仕事の技法が素晴らしく、手間と技術が詰まったとても上手な金継ぎ。
 
螺鈿というものにいままでは全く興味はなかった。よく重箱の高級なものに、漆黒のなか桜の花びらが螺鈿細工してあるものや、ブローチやペンダントなどアクセサリーに使われるもの。いまとなっては、その繊細な技法が詰まっていることを理解してるが故、生半可な気持ちでこれをつくりあげたのではないのだとよくわかる。その細かい細工にうっとりとし、何時間でも眺めていられそうだ。
 
樋口さんの作品は、さらに細かく卵殻(らんかく)という、うずらや鶏の卵の殻を割り、文様にあしらって漆器に貼る技法を細工している。こんなに細かく、しかも白く、白の中に黒の貫入が入っているのかと思うくらい細かで、その繊細さは自分の目を疑いたくなるくらい感動し、息をのんで見つめた。何にとってみても、その苦労をしたものにしかわからないことはある。私はまだ金継ぎ初心者とはいえ、樋口さんの作品に共感することが出来て何よりだった。
 
その作品の一部を購入出来ると知り、きらきらと輝く螺鈿継ぎの志野(しの)のお猪口を連れて帰ることにした。自分の元へやってきたその螺鈿継ぎのお猪口を眺めていると、器継ぎの作業が出来ずとも、樋口さんの継いだ器の側にずっと一緒にいられることが嬉しい。それこそ、この器が割れてしまう前のことは知らないけれど、割れてしまったという偶然に、誰かの手によって甦った素晴らしい細工に、とても愛おしいものを感じるのである。
 
話しを聞くと、樋口さんは6年金継ぎをしているけど一度も漆でかぶれたことがないと言う。私の教室の先生もそうだった。やはり仕事の丁寧さが問われるなかでやってしまった失敗であり、自分の身を削ってでも体験した、愛するべく器継ぎである。

 

 

 

写真は、葛湯

志野焼きは岐阜県美濃地方で生まれた、日本独自の釉薬。白濁した釉薬を厚めにかけ、柚子皮や砂糖菓子に似た質感が特徴。葛や柚子を浮かべて、志野と螺鈿継ぎの色合いを愉しむ。
鍋に葛粉とぬるま湯を入れ、かきまぜる。透明になるまで火にかけあたため、甜菜糖、生姜、蜂蜜、ジャムや柚子の皮など好みの甘味などを加え、よくまぜる。

 

金継ぎうつわつくろいこまや
http://komaya508.jimdo.com/

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する

 
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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958