NIWA MAGAZINE

  1. exnibition
  2. trip

食と人 vol.33 文/矢沢路恵

image001

 

きっと、満足という言葉とは違うのだと思う。希望通りに応えてくれた、というのは正しいことなのか。自分の想像とは別にみせてくれた表情にこそ、あるべき姿が見えてくる。思い通りにいかないからこそ、価値のあることなのではないだろうか。

 

緊張する器。その言葉が最高の褒め言葉だと思った。料理さえ、緊張していないといけないのだと思わせるその器には、これに何を盛ってみせようか、快感に似た心地よさがある。

 

2年前の秋、飛松さんのアトリエにはじめてお邪魔した際、美しく、佇まいが凛とした器に目を奪われた。触れた瞬間のやさしさ、色といい形といい、持ち易さ然り、ある程度重ねても無理のない厚みと大きさ、転がらない安定さ。まるで、五感に訴えかけてくるような器だった。店の什器と相性がよく、景色を彩る大切な存在となり、その出会い以来、カップ、皿、ボウルなどたくさんの飛松陶器の器を使わせてもらっている。

 

山食堂の近くにアトリエ兼自宅があり、奥さんのウーちゃんは陶器のアクセサリー作家で、錦糸町にある実家のもんじゃ焼き「まろん」は頑張ったご褒美のときにお邪魔している大好きな店。ちょうど一年前に長男が誕生し、ことあるごとに集い、いまとなっては私達の生活の一部に飛松家があり、ご近所さんとして仲良くさせてもらっている。

 

あるとき、飛松さんに相談されたこと。山食堂の理想の器をつくってみたいのだと言う。器に関して、自宅から一番近くにある料理屋であることと、型ものであることの可能性の追求など、理由はいろいろと。最初は半信半疑で聞いてはいたが、どうやら本気らしいということを悟り、理想の器をただただ、ひたすら述べた。器制作に関しては全くの素人の為、詳しい事はわからないがとにかく直径20cmの皿が欲しい。

 

洋食では、この手の皿は商業的に多くある。西洋の文化では、レストランにおけるサービス側が提供と配膳をする際に左手側に皿を持ち、積み重ねて手のひらに収まる大きさになっている。カトラリーもそれに合わせた大きさで相場が決まっている。フードは風土というように、食文化に対してその器が出来ている。

 

しかし、山食堂は和食であり、日常の家庭料理を提供する店である。和食にも合う器、汁ものにも対応出来、配膳の際に持ち易い、装飾が過ぎても使いづらい、重ねても安定した形、取り皿との相性、料理を選ばない存在感…。要望は想像以上に多かったのではないかと、後になって気がついた。その全ての要求を叶えて出来上がった器には「山プレート」と名を付けていただいた。

 

飛松さんの代表作でもある石膏型を使った磁器の鋳込み製法でつくられた、光を包み込むランプシェード。機械的なフォルムの中に、手でつくられたやわらかさ。その鋳込まれたシェードの美しさたるやいかに。しかし、これまで同じ型から何個も複製していくなかで、オリジナルの原型の形になるように型抜き後に手を加えて調整してきたが、最近はその行為自体にある種の違和感を感じ、型の摩耗は型の成長だと捉えるようになった。

 

作品を制作して行く中で、ありのままを受け入れるというか、それは素材や技法がもつ性質であり、副産物であり、轆轤目にも似た鋳込み型ならではの痕跡だと思うようになったという。

 

器も同様、生産して行く毎に型は劣化していく。最近になって、その劣化すらも成長と捉え、素材が応えてくれた素直さや歪みの良さを、一点ものではなく、型でふたつ以上のものをつくるときにコントロールされすぎていない、自然のままの窮屈でないものづくりをしたいのだと。だからといって何でもありになってしまわない。100パーセント作家がうめるものではなく、見る人の余白を考える。

 

完璧なものが、全てだろうか。未完成だからこそ、余地がうまれる。こうでないといけないというものに、心を突き動かされるだろうか。そのものの美しさは、あるがままの、その姿なのである。

 

 

 

○写真は、イナダのお造り「山プレート/丸」

この器に何を盛ってみせようか、その緊張感がなくてはならない。螺旋に広がった襞(ひだ)が美しい模様を奏で、料理に奥行きを持たせる。

イナダは手に入らないような高級魚では無いが、大きくなると鰤になる出世魚。味が良く、身の赤い色がインディゴの器によく映える。この器に、この料理を盛りたいと思える緊張感が心地よい。イナダを三枚におろし皮をひいて刺身にする。新玉葱と大葉、豆苗の薬味と塩昆布、山ワサビの醬油漬けと一緒にいただく。

 

●陶磁器作家  飛松弘隆

1980年生まれ  佐賀県出身、東京都在住。

「飛松陶器 tobimatsu TOKI」の屋号で磁器の鋳込みを中心とした作品を発表。多摩美術大学工芸科陶プログラムを卒業。在学中の型による立体造形の経験を活かし、鋳込み型の技法による器の制作に着手。陶芸家の小川待子氏の助手等を経て独立。磁器の光を通す性質に着目し、透光性を調整した磁土によるランプシェード制作に取り組む。

大正〜昭和期、蛍光灯の登場により衰退したミルクガラス製の量産型電灯傘に惹かれ、その文化的価値観を更新していくという考えのもと、現代のくらしを再び照らしだす照明を模索する。磁器独特の光の濃淡が現れるfinシリーズや、石膏型の境界線 ”バリ”を残したシンプルなodd lineシリーズなどのシェードを発表。制作と生活の場である古い一軒家を改装した住居兼工房では、年に数回のオープンスタジオを開催。

http://tobimatsu-toki.blogspot.jp/

 

 

●飛松陶器展 ー 隆起する谷 ー

2016.12/19(mon)-12/25(sun)

12:00-19:00 (最終日は16:00まで)

ギャルリーワッツ

東京都港区南青山5-4-44 ラポール南青山103

‪0334992662

 
 
 
矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する
 
 

image003

 

山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)
〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A 電話・FAX 03-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先)
※不定休

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958