NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.36 文/矢沢路恵

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何も無い人生より、何かしらある人生の方を選ぶ。失敗も苦い経験もしたけれど、どんなことがあっても振り返れば淡い思い出。何も無い一本道より、たくさんの岐路に立ち、考え立ち尽くす度に誰かと出会う。そんな人生も悪くないと思いながら生きてきた。

 

怒濤の数ヶ月だった。3月に書き終えた原稿を目黒さんに確認してもらうため、メッセージを送る寸前だった。不思議なこともあるもんだ。同じタイミングで目黒さんからメッセージが届いた。「折り入ってお願いしたい事があるのです。」奇遇です、こちらからもお願いしたいことがありまして、と原稿を送った。そう何度も言葉を交わした事もなく、お会いしたのも震災より二年後に仙台のアルフィオーレを訪れたときの一度だけだった。何度も会って言葉を交わしておらずとも、心がつながっている人がいる。そう確信させた出来事だった。

 

目黒さんからのお願いは、私を別世界へ誘ってくれた。そのお話をいただいたときからワクワクドキドキが止まらなかった。ただ、不安で押しつぶされそうにもなった。いろんな不安をいっぱい抱えてでも、目黒さんと仕事がしてみたいとも思った。イエスかノーか考える前に、私はすでに石巻への想いが頭の中を駆け巡っていた。

 

リボーンアートフェスティバルという、音楽、アート、食の芸術祭が石巻周辺地域で51日間行われる中、食の部門となる浜に建てられるレストランの他に、もうひとつの新しい試みである食堂について、浜のお母さんたちと一緒に考えていってくれないかというものだった。

 

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地形がつくる豊富な魚介類の産地、浜の元気なお母さんたちの手からつむぎだされる家庭料理、牡鹿半島という、あまり陽の光が当たらない場所にたくさんの人が訪れ、その地の一部に触れ感じてもらうようなそんな場所。津波で流された土地に一軒の食堂が出来る。未だかつて足を踏み入れた事のないその場所で、私に何が出来るのだろうか。とにかくその場所へ、その風景や土地や、流れる空気や風を感じてみたかった。考える迄もなく、気付いたら私は石巻へ降り立っていた。

 

石巻駅へ到着して最初に連れていってもらった場所は、市内より丘をのぼったところにある街のシンボルマーク的な存在の日和山公園だった。東日本大震災の津波から逃れ、多くの人が避難したあの場所だった。あのとき、ここから見えたものはどんなに凄まじいものだったのだろうか。橋をこえて襲って来た津波、中瀬まで流れてきた大きな波、市民ラジオ局の職員が、街中に情報を送るためあの日確認しにきた電波棟。当時ニュースの画面でみていたものがここにあった。その展望台からみえる牡鹿半島・中腹部にある荻浜まで車で40分程、とうとうここまでやってきた。

 

31ある牡鹿半島の浜の風景は、それぞれに違った表情をみせ、美しい海と空の色のコントラストが綺麗だった。荻浜は半島の中でも少しひらけた場所にあり、ここがリボーンアートフェスティバルの中でも牡鹿ビレッジという食の部門が二カ所出来る地だった。そこは牡蠣の養殖が有名な場所で、すぐ近くに牡蠣の殻むき場がある。地域の多くの人が働く、むかしからある場所だ。側には津波で被害にあった、もともとの牡蠣の殻むき場があった。浜のわきには100軒の住宅があったという。

 

ここが荻浜の中心だったという跡形はなくなっていた。この地域の人々は近くの仮設住宅に住んでいる。案内してもらった施設に入ると、度肝を抜かれる光景を目の当たりにした。屋根の上まで積み上がった牡蠣の山を、ひとつひとつ手で剥いていく。それも何十人が横一列になり、淡々と、そしてすごいスピードで。時には笑って余裕を見せながら、明るい笑顔で迎えてくれた。親子三代で一緒に働く人もいた。その作業着もカラフルでお洒落。みんなそれぞれ素敵なスカーフを頭に巻き、思いおもいの自分だけの格好をしていた。浜の食堂は、その自由な明るい食堂にしたいと、私の中で思いが芽生えていた。

 

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自分には、出来ない事の方が多いように思っていた。実際、出来ない事も多々あると思う。出来ないことをするのではなく、自分にしか出来ないことをしようと思った。この地に来て、誰かに出会い、浜の風景や食材、津波で何もかもが掻き乱された場所を見た。そこから何が出来るのだろうと、何も出来ない自分ではなく、既に気持ちを動かされている自分を感じた。気持ちがあるから動くのだ。思いがあるから行動に出る。

 

2017年、7月22日にリボーンアートフェスティバルの中でオープンしたその食堂は、「はまさいさい」と名付けられた。浜になびく波のように淡々と、こどもから大人まで誰もが呼びやすい名前、浜のお母さんたちと漁師をつなぐ、みんなの広場であり続けるよう、その風景を思い浮かべた。

 

30近くある牡鹿半島の浜の風景

自然がつくったその姿からは

土地の恵みが満ちあふれ

豊富な海の幸は季節をめぐり

旬の食材は日々の暮らしを彩る

 

どんなことがあっても人々は

大むかしから食べて生きてきた

肥沃な大地と共存し

山のものを摘み 海のものを採り

動物を獲って生きている

生きることはいのちを食べること

食べることは 生かすこと

何十年 何百年と続く

終わる事の無い生命の循環に

長い歴史と生活の断片を垣間みる

生きる術をつないで

この先もずっと残していきたい

 

先人の知恵が残してくれた郷土料理は

浜のお母さん達の手によって

つむぎだされた家庭の味

その食堂から溢れ出すのは

おいしそうなごはんのにおい

行き交い集う たくさんの笑顔

訪れた人々が風を吹き込み

様々な色や 音を生みだす

 

生きるという事に対するしたたかさ

おいしいものを食べたいという貪欲さ

当たり前にそこにある日常を

ずっと見守っていたいと思うのです

 

**

 

○料理 牡蠣−マカレー(カキーマカレー)

 

荻浜の冷凍牡蠣を夏でも楽しめる方法はないかと、試行錯誤の末、山食堂が考案したメニュー。刻むという意味のあるキーマ、肉を使用しておらず、地元産の味噌やパプリカ、季節の野菜やスパイスを加え、こどもも大人も味わえる名物カレーに。鍋に油、にんにくを入れ火にかけきつね色になったら7mm各に切った野菜と塩を入れ、甘みを出すようじっくり炒める。青大豆を茹でた汁ごとと『牡蠣の前仕込み』を加え、材料がかぶるくらいの水と味噌を入れ、沸いたらアクを取り、弱火で20分煮込む。生姜を入れさらに10分煮込む。

『牡蠣の前仕込み』

牡蠣と油をフライパンに入れ強火にかける。塩を入れ出て来た水分をとばすように炒める。少し焦がすように炒め、スパイスを入れ香りを出し(足りなければ油)酒を入れ、鍋底をこそげる。

●料理写真撮影/古里裕美

 

 

●はまさいさい 宮城県石巻市荻浜家前75 営業時間10:00〜18:00 ※不定休 tel/0225-98-7663

宮城県・石巻地域で9月10日まで開催される、リボーンアートフェスティバル2017 にて、山食堂がコンセプターを務める牡鹿半島・荻浜の食堂「はまさいさい」では、浜のお母さんたちがつくる家庭料理や豊富な魚介類の数々、荻浜の名産である牡蠣を夏でも楽しめる方法として山食堂がメニュー考案したカキーマカレーなどをお召し上がりいただけます。

51日間のイベント開催終了後も、食堂「はまさいさい」は継続して営業していきます。浜のお母さんたちの家庭料理を牡鹿半島の風景とともに、この土地と全てを味わいに来ていただけたら幸いです。

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

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山食堂  完全に家庭料理の店(海のものもございます。)

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

平日・夜=17時半〜21時半(ご予約優先)
土日祝・昼=12時〜売り切れ迄 夜=17時半〜21時半(夜はご予約優先) ※不定休

Open Weekdays  Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation
Open Weekend&Holidays  Lunch 12:00pm to Sold out Dinner 5:30pm to 9:00pm
*No fixed holidays

https://www.facebook.com/pages/山食堂/398470866947958