NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.40 文/矢沢路恵

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出会いは突然やってくる。思いもしなかった、運命的な出会い。後になって振り返ってみれば、そういう道筋が出来ていたのではないかとすら思う。そんな風に思える人が、一度しか会っていないのにずっと心の中にいる。言葉もわからず、目の色も、国籍も違う。知っているのは名前だけ。いまどこでどうしているのだろうか、と彼の名前は私の心の中をずっと彷徨っている。

 

以前、これからはじまるレストランの立ち上げをしていた頃だった。はじめて働くフレンチレストランだったので、フランス料理の辞書を買いにいくところだった。飯田橋の日仏学園にフランスの本などを探しに行き、ふと見上げた書店の反対側にあるガラス越しのロビーに飾ってあった画に心を奪われた。

 

大きな白い布に描かれたその画は墨一色。幻想的な優しさと、深い森の入り口のような静けさの中に森の木が立っているノスタルジックなものだった。自分の好きな雰囲気の、モノトーンの淡い世界そのもの。画の下の部分に「MELANCHOLIA」と同じく墨一色で書いてある。学園内書店のお姉さんに、あの画は誰が描いた物なのか聞くと、「あっ!いまその本人がそこにいます!はやく話しかけた方がいいですよ!」と矢継ぎ早に、そこにあるのが画集です!日本ではじめてここで販売してるんです!いま帰っちゃうところだからはやく話しかけたほうがいいです!と。画集は幾らなのかと聞くと、数千円。いきなりここへやって来て、ハイッと払ってその画集にサインしてもらうのもどうかと思った。う〜んと悩み、もう一度ロビーに飾ってあるその画を観に行った。

 

やっぱり素敵で、何度観ても心を奪われる。また書店に戻り、その画集を手に取り、ぱらぱらっとページをめくったら、私は吸い込まれるようにその世界に引き込まれた。色の無い白と黒の空気に迷い込み、森の奥へと旅をして湖で泳ぎ、シダの葉っぱの自生する道をかき分けて歩き、山の中を彷徨い、海の風に吹かれ、ハッと気付くと日仏学園の書店でこの画集を眺めていた。線の描写といい、間のやわらかさ、雰囲気を醸し出す画のクールさ、他に無いこの世界感をどう表現すればいいのだろうか。まさに私の好きなものがいっぱい詰まっている。その画集と出会って数分の事だったが、これ下さい!と画集を買い、売店のお姉さんに促されるままに、その作者に会いにいった。

 

ロビーにいたのは、背がすらっと高く、坊主頭の瞳の綺麗なフランス人の若い男性だった。私はフランス語も英語も出来ないので、そのフランス人の男性の側にいた友人らしき日本人の女性に話しかけた。いまこの画集を買ったので、サインをして欲しいと通訳をお願いした。フランス人の男性は、あなたは僕の画集を買ってくれた日本ではじめての人だといい、えらく喜んでくれた。ロビーに飾ってある大きな画の事、書店のお姉さんの事、この画集を買う迄の事を説明すると、私がその画をひどく気に入った事を、また喜んでくれた。この画集には表紙がない。本当はあったのだけど、その表紙が気に入らず、自分で破って表紙のない画集にしたのだと話してくれた。飾りっけのない素のままのその彼自身もすごく好きになった。サインしてくれたのは、私の名前、そして画集の物語にでてくる主人公の男女の画、あと私と出会った事が嬉しいといった内容のメッセージを添えて。彼の名前はエイメリック・エノー。名刺を渡したので会社のアドレス宛にメールをくれたのだが英語で分からず、返信したのが随分後の事だったのでアドレス無効となっており、彼が故郷のボルドーから送ってくれたメールを最後に連絡が途絶えた。

 

その後、彼の名前をたよりにいろいろなところを調べたが、どうやらボイスパフォーマンスをしながら世界中を旅しているのだということがわかった。あの時、自分はイラストレーターではない、しかし自分を表現するもののひとつに画をかくということをしてみたかった、というような内容を話していたような気がする。もう随分前の事だから私の記憶も定かではない。いまでもエイメリックの画が好きで、山食堂の年賀状の挿絵には毎年、彼の画集の中からその画を拝借している。エイメリックの描いたその画が葉書になり、どこかの誰かへ辿り着き、旅をしているエイメリックがその葉書を飾っている机をふと見て、私のことを思い出してくれたらと。どこかの国で元気にしているだろうかと、冬の空をみて想う。

 

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ヴァン・ショー

ショー(あたたかい)、ヴァン(ワイン)という意味の、スパイスや蜂蜜、季節の果物、柑橘類をいれた寒い時季に美味しいホットワイン。エイメリックの画集に描かれているのは、一組のカップルが森や海などを旅する物語。あたたかい紅茶やワインが度々登場する。墨の黒い線の描写が美しく、毎年Allright Printingさんによるデザインと活版印刷で年賀状にしていただいている。今年の年賀状は、手の指の先にトンボがとまっている画に。石巻・荻浜の食堂「はまさいさい」にて、昨年夏にどこからかたくさんのトンボが集まって来た。津波で100世帯が流されたこの浜に、また多くの人が集まって、みんなの場所になる象徴だと思った。

 

国産ワイン(白、赤どちらでも)、シナモン、八角、林檎のコンポート、桃のコンフィチュール、キウイ、レモンの蜂蜜漬け、ローズマリーを入れた鍋を温める。赤ワインには赤い果物、白ワインには白い果物がよく合う。

 

 

矢沢路恵
都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

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山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程
深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

 

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

https://www.facebook.com/yamashokudo/