NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.49 文/矢沢路恵

 

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読書会、というものに全く興味がなかった。ましてや本を読んで大人になっておらず、幼少期の想い出の本など、思いだそうにも記憶の片隅からほじくり出しても、児童館や図書館でいつも読んでいた本が2~3冊あったかなぁというくらいの事。本を読む以前に勉強が嫌いだったので、教科書すらまともに読んでこなかった。大人からの読め!読め!という圧力に、本を読むことへの恐怖に変わってしまったのか。本に興味のないまま、大人になってしまった。

 

夏の終わりに、山食堂のお客様でもある役者の古屋隆太さんが出演する芝居を観に行った。詩人の茨木のり子さんの半生を題材にした作品で、もちろんのこと、不勉強な私は茨木のり子さんすら知らなかった。芝居の中で何度も登場する代表作「自分の感受性くらい」、「倚りかからず」など、言葉のひとつひとつに胸が頭が手足まで振動し、しびれる程の感銘を受けた。自分の無知を恥じ、いままでの人生に茨木のり子を通って来なかった事を後悔した。後々、不思議な偶然が重なり、自社のワークショップで毎月読書会を開催している友人の、その月の会が茨木のり子の読書会だった。更にその詩を朗読するのが大貫妙子。導かれるようにその読書会に参加することにした。その日が来るまで興奮状態だった私は、ちょうど同じ日の同じ時間に、他の日に都合をつけることが出来ず京都旅行を計画してしまった。茨木のり子の詩を朗読する大貫妙子の場面を想像しながら、私は京都へ向かった。

 

なんと残念な事をしてしまったのだろうという想いと、京都旅行を満喫した気持ちのもどかしさ。同じ日は二度とは来ないなどと思いながら毎日を過ごしていると、友人から読書会のお誘いが。前回来られなかった振替をするので今月来られないかな?と連絡があった。仕事で行く事が出来ないと思っていた日だったが、友人が振替日を間違って連絡くれていたおかげで、たまたま休みの日に行く事が出来た。その会は石井桃子さんの本を若菜晃子さんが読む、という会だった。本の世界を知らないで育った私はもちろんのこと、そのお二人共、名前を存じ上げず。知らないで行くのも失礼にあたりどうかと思ったのだが、めぐりめぐってその日に行ける事になった縁を感じ、隅っこで静かに聞いていればいいと見守っていた。

 

石井桃子さんは戦後の児童書の翻訳をし、たくさんの本を世に広めた方であり、くまのプーさんやちいさいおうち、ちいさなうさこちゃん、ピーターラビットなど必ずみんなが小さい頃、手にとって読んでいただろうという本を翻訳された、とても有名な方だった。しかしご自身は一生涯、表に出て来ることは数えるほどしかなく、亡くなるまでずっと編集者を貫いた。その石井桃子さんにまつわる本をはじめて世に送り出した方が若菜晃子さんだった。若菜さんは幼い頃から本が大好きで、図書館に通っては読み、百貨店の本屋にお母さんに連れて行ってもらった思い出など鮮明に覚えていた。上京後、山と渓谷社に入社、その後ご自身でも多数本を出版されている。読書会のタイトル「少女は本を読んで大人になる」と、まさに本を読んで大人になった方だった。

 

隅で静かにお話しを聞いているつもりだったが、若菜さんの幼い頃に読んだという石井桃子さん訳の「とぶ船」のお話しを聞いているうちに、まるでそのお話しの中に飛び込んだように頭の中が物語の世界でいっぱいになった。本の中は夢で溢れている。自分を自由自在に好きな世界へ誘ってくれる。文字を読んだだけでこんなにも夢の世界を泳いでいけるのなら、一冊の本から得る想像は無限大に広がる。読書会の合間、本を片手に小腹を満たす軽食を出してくれた。友人たちがつくるその小さい食事は、秋の味覚がいっぱい詰まったもちもちの食感のおにぎりだった。本を片手に何かを食べる。大好きな本を片手に読み進めたページを指でおさえながら、次のページのわくわく感を胸に、口に放り込む。誰にも邪魔されない、本を読んでいる間のひとりだけの世界のお楽しみ。

 

若菜さんの著書「街と山のあいだ」を読んでいたら、山の雑誌時代の新人の頃、大雪渓から滑落したエピソードが書いてあった。私がこないだ八方尾根のロープウェイで山頂に登ったあの急斜面のすぐ側の尾根から滑り落ちたのか。こわいやら、面白いやらで、本を読みながら電車の中で笑ってしまった。本なんて興味が無かった私は既に読書をし、そして本の世界に飛び込んでいた。

 

読書会の後半に、石井桃子さんのこんな言葉を聞いた。

 

かつてあったいい事は

どこかでずっと生き続ける

 

いままでに無いほどに言葉の衝撃を受け、石井桃子さんの言葉に奮い立たされた若菜さんの言葉に私が奮い立たされた。その言葉に救われ、励まされ、生きる力をもらい、前を向いて歩いて行こうと思った方がどれくらいいたのだろうか。若菜晃子さんから学んだ石井桃子さんの言葉は、空想の世界を巡り、自分の新たに進む第一歩となった。

 

子どもたちよ

子ども時代を しっかりと

たのしんでください。

 

おとなになってから

老人になってから

あなたを支えてくれるのは

子ども時代の「あなた」です。

 

石井 桃子

2001年7月18日

**

 

・写真は、あんざい果樹園ル・レクチェ(洋梨)のコンポート

 

若菜晃子さんは幼少期、大好きな本を買いに行った時に百貨店のレストランで必ず注文していたものは、クリームソーダだったという。アイスクリームやフルーツ、ワクワクするのは大人になってからも変わりはないが、子ども時代に楽しかった思い出は、大人になった自分を支えてくれる大事な要素。

 

 

 

鍋にてんさい糖、白ワイン、フレッシュレモンのエキスを入れ、火にかける。ル・レクチェを皮のまま鍋に入るだけの数を入れ、数分煮る。板ゼラチンを水に入れふやかしておいたものを、温かいうちに煮汁で溶かして冷やし固め、ジュレにする。煮たル・レクチェと煮汁が冷めたら、半分をバーミックスでペースト状にし、冷凍庫で凍らせてソルベに。

 

 

 

矢沢路恵

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

 

 

山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程

深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

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