NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.51 文/矢沢路恵

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食と人 vol.51

 

私が小学生の頃、父のお兄さんである私の叔父は、街の小さな本屋さんだった。本や活字が好きだった父とお兄さんは、中学を卒業してすぐ印刷会社に勤めた。父は定年までその会社にいたが、お兄さんは本が好きで、自宅の一階に小さな本屋を作った。いつも正月にその本屋へ行くのが楽しみだった。新年のご挨拶に伺う目的だが、帰りにいつも小学◯年生の超特大付録付きの本をくれる。母には婦人画報の新春特大号のやけに分厚く値段の高い本を持たせてくれた。

 

師走と正月の慌ただしさに、年々、身体がついていかなくなってきた。体力の限界にどこまで自分の身体を持っていけば良いのか、日々わからなくなっている。限界を超えない程度に頑張るなんて、そんなもの超えてみなければわからない。超えてみてはじめて限界を超えたとわかるのだと、毎度の事ながら学習しない自分に笑ってしまう。実際のところ山食堂を元旦から開けているため、正月休みのほわっとした感じはなく、紅白歌合戦を観ている間だけが、束の間の休息。

 

年明けの、そんな慌ただしい中に雑誌の取材依頼が来た。年末年始の飲食店の慌ただしさに命知らずな若者もいるもんだと感心した。以前、同じ本の店の紹介ページに載せていただき、今回は特集ページでの取材依頼だった。自分の店が特集ページに載るという事が信じられなかった。朦朧とした脳味噌で企画書を何度読んでも全く頭に入って来ず、依頼のメールをくれた命知らずな若者を、山食堂に呼び出した。

 

nice thingsの江連旭さん。はじめましての人だった。山食堂を知らずに取材依頼に来るとは、なかなかの勇者である。それでもご縁をくれた飛松灯器の飛松さんからのご紹介だったので、断る訳には行かなかった。開口一番、説教でもしてやろうかと思っていたが、なかなかのソフトな若者である。怒る気にもなれず、私はわたしなりの、自分自身と店の事を話しはじめた。

 

命知らずなこと以外に感心したのは、私自身の事を散々調べてくれていることだった。月に一度、Niwa-magazineでつらつらと綴っている文章を全て読み、以前のコウトークでのアーカイブ、ラジオに収めた私自身の半生のインタビューも全部聴いている。私の事は何もかも知っていると思ってから、何も話す事は無くなった。ただ、紙面上で山食堂の事を綺麗に書き立てるのは違うとお願いした。間違っても「丁寧な暮らし」とか「体に優しい味」という言葉は反吐がでるのでやめてほしいと。

 

以前受けた取材で、NHKのドキュメンタリーがあった。山食堂の店の名前が一切、放送にのらなかった為、私達にとっては1円にも宣伝にもならなかった。それでも被災地の為と思い、1ヶ月半以上の数回に渡る密着取材にも応じた。編集の段階で確認をとられる事もなく、出来上がった映像はうまいところだけ切り取られ、全国で流された。良し悪しも無く、こういう人が世の中にいるんだなあとテレビに映っている自分を私自身が観ていた。いいとこだけ編集して悪いところはカットされ、NHKの思惑通りに私が出来上がっていた事に虚しさを痛感した。ある時、山食堂のお客様がベトナム旅行へ行った際、ホテルのテレビをつけていたら私の映像が流れてきたのだと言う。偶然の出来事だったが、国営放送は全世界に流れるのだと気がついた。私の発信した小さな事は、全世界に発信される。放送の影響力の大きさを感じた。

 

 

私達はロボットではない。毎日まいにち慌ただしい中で生活し、更に仕事をし稼いでいかないと生きてゆけない。そんな中で綺麗に毎日を過ごしているなんて大間違いだ。それを紙面に載せて素敵な生活をしましょうなんて、気持ち悪くて吐気がする。嘘の綺麗事ほど気持ちの悪いことは無い。ただ、本当のことだけ書いても特集にならない。山食堂を取材しようなんて、至難の業で手を煩わせる。それでもご縁があって山食堂まで何度も呼び出され、自分の全てで記事にしようという江連さんの根気に負かされた。ソフトなあたりの芯の部分、揺るがないどしっとした何かがこの人の腹のなかに石のように居座っている。

 

今度はこちらが編集者である彼の真髄に興味を持ってきた。無類の読書家である。本が好きで編集者になった鏡のような人だった。取材が終わり、記事があがっててくるのを心待ちにしていた。あがってきた記事に修正を入れ「初稿か?」と思わせる程の差し替えをお願いし、赤を山ほど入れた。それでも彼を信頼しての事だった。この人ならきっとやり遂げる、そう信じて原稿の半分以上の訂正と大胆な写真の差し替えをお願いした。

 

 

正月に父のお兄さんの本屋さんに行く事が何よりの楽しみだった頃、正月特大号が本屋に並んでいる高揚感、お小遣いで買った雑誌の輪ゴムを外して表紙を開いた時のワクワク感、ページをめくる時のドキドキした気持ち。本に対する理想は、お金を払って買ってくれた人の期待感を忘れてはならない事。その記事を、その本をどれだけ大事にしていたか。切り取った大好きなページはいまでも捨てられない。私の宝物であり財産だ。

 

本を一緒に作っていく。おこがましいがそんな言葉が頭に浮かんだ。取材されて記事になって終わる気がしなかった。お互い向き合い、譲り合うどころかせめぎ合う。他人の事も我が事のように想い、黙っていられず相手の懐に入り込む。何も思わない人だったら、きっとそんなことにはならなかっただろう。

 

仕上がった記事を読んだら、タイトルから締めくくりから、美しい言葉に涙腺がゆるゆると緩み、目にいっぱいの涙が滲んだ。江連さんの記事は、間違いなく嘘のない山食堂の、あるがままを綴られて記事になった。

 

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【山独活の酢味噌】

取材の際に撮影した料理だったが、ある事で掲載を諦めなければならなかった写真。嘘のないあるがままをそのまま載せることの難しさ。お互い向き合い、せめぎ合い、支え合って形になる。こちらがとても勉強させてもらえた特集ページだった。

 

西京味噌と酒、味醂、砂糖、卵黄を合わせ火にかけ練りあげ、玉味噌を作る。冷めたものに酢と辛子を混ぜて酢味噌をつくる。山独活は皮を剥いて棒状の大きさに切り、水で洗う。山独活の皮を剥いただけの嘘のないそのままのシンプルさ。春の香りが一度に口の中で広がる。ありのままの、そのままの美しさだってあるのだ。それをどう表現するかは自分自身の内面が浮き出る瞬間。

 

 

矢沢路恵

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

 

 

山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程

深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

https://www.facebook.com/yamashokudo/