NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.54 文/矢沢路恵

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3. 伊藤さん

 

今年の3月11日を目前に控えたある日だった。山食堂のお客様で、仙台に住むデザイナーの伊藤さんが、営業中に慌てて店に飛び込んできた。矢継ぎ早に、あれこれ言葉が飛び出し「ずっと送ろうと思っていたのですが、どうしても直接会って渡したくて。」とカバンの中から急いで取り出したものは、驚くべきことに私がずっと欲しかったあの「m」のワインだった。

 

ドラマのように、まるで何かの映画を観ているかのようで、散らばったパズルのパーツが全てつながり此処でひとつになった。華雪さんの投稿にあった、仙台でデザインの仕事をするlさんが伊藤さんの事だったとわかった時には、私の頭の中で全て一本の線にぴたりと重なった。

 

「僕がデザインしたワインなんです。」 伊藤さんはそう言って、山食堂さんと華雪さんがお知り合いだった事も知らなくて、ずっと送ろうと思っていてとっておいたのだけど、山食堂まで来て直接お渡ししたかったから遅くなってしまってすみませんなどと次から次へと言葉が飛び出した。華雪さんが書いたmの文字。赤い美しいルビー色。生産本数が少なく松島でしか販売されないと知り、きっと私の手には入らないだろうと諦めていたワインがいまここにある。あまりに突然の事で驚いたのと嬉しいのとで目にいっぱいの涙が溢れ、華雪さんが書いたmの文字を、何度も何度も指でなぞり、いままでの全ての事と、遠くにある東北の事を想った。

 

いつの日だったか数年前のある日、山食堂に伊藤さんがはじめて来店された夜、お知り合いの方が深川に住んでいるのだとお聞きし、何の話からか仙台からわざわざ来て下さった事がわかった。つい最近まで石巻の被災地にある食堂を立ち上げる仕事をしていたのだと話すと、同じ地域の仕事で少し関わっていた事を教えてくれた。いろいろお話ししていたら会計にクレジットカードを使えない事を知り、所持金が足りず慌てふためき、お知り合いの方にお金を借りてお支払いするのでと言い、その深川に住むお知り合いの方が閉店後にいそいそとやって来て、足りない分を支払って行った。雨の降る夜だったかと記憶している。ビニール傘を持ち、ビーサンを履いてビショビショになって足りない分を支払いにやってきたその人は、山食堂のお客様だった。

 

夏に滞在していた石巻の牡鹿半島のお話しをした事と、仙台の美味しい店を知っていたら教えて欲しいと言ったことを覚えていて下さり、その年の秋に、私がお話しした牡鹿半島の思い出の場所を車で巡ってくれたご報告と、仙台の美味しい店の情報をとご丁寧に連絡を下さった。そして、翌年の年明けに山食堂に来訪してくれた。正月明けて深川地域は繁忙期になる為ゆっくりとお話しは出来なかったが、私達の事を覚えていて下さって、心から有り難いと思った。

 

牡鹿半島へ行かれた時、私達が食堂の立ち上げで関わっていた「はまさいさい」で食事してくれたのだという。そのまま湾をなぞるように狐崎浜(きつねざきはま)まで行って下さった。石巻に滞在中に行きたかった場所はいくつかあったが、食堂の立ち上げで朝から晩まで店に張り付いていたので、未だ行けていない場所のひとつが狐崎浜だった。震災前まで地域住民の集まる場所であった事、夏の盆踊りを地元の方々がとても大切にされていた事などを、この地に想いを寄せる方達が教えてくれた。ふと話したその地域の事を覚えていて下さった伊藤さんは、私が山食堂でお話ししたその事を、行く先々で思い出してくれていたのだ。

 

こんなにも想ってくれていて、ずっとmのワインを山食堂まで持って行こうとしていてくれて、その気持ちそのものが宝物のようで。

 

運命というと大袈裟だけど、ここにしっかりと手繰り寄せる波打ち際に、沢山の人の想いが寄せては返す。砂浜で拾った貝は、いつしかまた出逢える目印となった。

 

遠くに想っていた松島の海が、いま目の前に広がっている。

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「m2017」スチューベンのワイン

矢本の塩海苔と梅若布の白石温麺

華雪さんの投稿から、ずっとどんな味かと想像していた「m」のワイン。窓越しに透かせたボトルの、美しいルビーの赤い色。開けたてのドライな風合いから、次第にミネラルをたっぷり感じる旨味に変わっていく。甘酸っぱいプラムの香り。震災後、松島の牡蠣や魚介類に合うようにと地元の有志の方々がつくられたワイン。仙台の白石温麺に三陸の若布を、松島の矢本の海苔とスチューベンの甘酸っぱさに梅干を合わせて。

 

薄口醤油に砂糖、味醂を入れ一煮立ちさせる。一週間ほど寝かし、かえしをつくる。茹でて氷でしめ水気を切った白石温面を器に盛り、かえしと鰹出汁を合わせたものをひたひたに注ぐ。刻んだ大葉と茗荷、戻した若芽とふのり、梅干と矢本の海苔を添え白胡麻をかける。

 

矢沢路恵

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程

深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

https://www.facebook.com/yamashokudo/